いかにして人々をボランティアに誘うのか

神奈川大学人間科学部 教授
齊藤 ゆかYUKA SAITO

略歴
専門は,生涯教育学,生活経営学,ボランティア学。博士(学術,2004)。ボランティア活動を通したアクティヴライフの構築支援方法論の研究。産学官民で協働した世代間交流プログラムの実践と評価開発を行っている。聖徳大学生涯学習研究所・人文学部生涯教育文化学科准教授(2005~2016年)を経て,2016年神奈川大学に着任。2018年同大教授。現在,学長補佐(地域連携),資格教育課程センター(社会教育課程),共通教養教育センター(体験型研修教育部会会長)等。著書は,単著『ボランタリー活動とプロダクティヴ・エイジング』(ミネルヴァ書房,2006),『ボランティア評価学::CUDBASを用いた評価指標の設定と体系化』(ミネルヴァ書房,2022),編著『学びの見える化の理論と実際』(勁草書房,2023),『創年のススメ』(ぎょうせい,2008),『ひと×まちからの創造』(悠雲舎,2010),『実践事例にみるひと・まちづくり』(ミネルヴァ書房,2013)他多数。

POINT
・新たなボランティアの生成には,「人間」(個人)の願いや思いを大切にすること。
・「潜在的ボランティア」は,ボランティア行動には表れていないが,何らかの活動へ参加・参画する可能性が高い。
・世代・属性に応じた自己承認ニーズが高まれば,「潜在的ボランティア」が活動へ一歩踏み出し,地域で「仲間」や「居場所」を見つけ「交流」や「活動」につながる。

※本稿は,齊藤(2018,2019,2022)に基づき,加筆・修正したものである。

1.ボランティアとは何か

 なぜボランティアを誘うのか。あらゆるNPOの核心は,人に依拠した活動をしている。様々な社会課題を見い出し,解決に向けた行動は,人がいなければ実行はできない。その人は,有償か無償かのいずれかで働く。この無償労働(アンペイドワーク)とは,家事・育児・介護の家事労働,自営業・農作業など無償で手伝う家族労働,ボランティア労働を指す。また,寄付は「お金や物の寄付」に対して,ボランティアは「時間と労力の寄付」とも言われる。
 では,一体ボランティアとは何か?ボランティア研究の礎を築いた阿部(1988:32)は,ボランティアとは「お互いの生活の中でできることを,自分の能力を,金銭を,時間を,少しでも隣人のために,そして,隣人と共にサービスしよう,しかも,それを他者や役所に強制されてではなく,自発的に,自主的に行動にあらわそうとする人」を言う。阿部は,ボランティアは「決して特殊な人を指すのではない」「誰にでもできる」と強調する。しかし,現場では地域の担い手不足が課題となっているのである。
 そこで本稿は,いかにして人々をボランティアに誘うのかの問いを解明したい。ただし,前提として「行政の穴埋め」的な存在として,ボランティアの動員を促す研究を行っていないことを強調しておきたい。むしろ,ボランティアに無関心であることや,参加しない自由も容認している。教育学を専門とする筆者は,興梠(2003:50)が重視するボランティアを通じて,「必要とされる自分」や「かけがえのない自分」を見出し,変化を創り出そうという運動性や,広田(2013:35)が言及する「ボランティアが社会の中でどういう役割を果たすことになるのか」の参加の質について注目すべきと考えている。

2.ボランティアを「やらせたい人」と「やりたい人」は誰なのか

 そもそも「誰がボランティアを必要としているのか」,また「誰がボランティアをやりたがっているのか」の両面から述べたい。

(1)ボランティアを「やらせたい人」:地域の担い手不足を解消したい

 誰がボランティアを求めているのか。その多くは,地域の公共空間を担う地縁型組織の主導者とそれを支える行政担当者である。なぜなら日常生活圏域で最期まで生きるには介護や医療だけでなく,日常的な生活支援が欠かせないからである。誰もが安心できる生活環境を持続可能にするには,行政だけでなく地域の支え合いが不可欠である。しかし,どの地域も,超高齢化,少子化と人口減少,若者の流出など社会的課題は深刻化している。さらに,コロナ禍の停滞によって,地域の伝統文化の再起や継承が難しくなっている。
 総じて「地域の担い手不足」なのである。自治体・町内会等の地縁型組織では,地域の美化,防災,安全・防犯,文化スポーツ,地域行事などを担ってきた。次なる担い手や継承者を見つけ出すのが難しい。また,子ども会,青少年団体,婦人会,老人会,PTA,民生委員などの地縁組織は,「役員の成り手がいない」と嘆く声をきく。要は,地域の公共空間を担う人材(ボランティア)が高齢化・固定化し,打開策が見つからないのである。

(2)ボランティアを「やりたい人」:潜在から顕在へ移行

 ボランティアは,日本人の中でどの程度存在しているか。総務省「社会生活基本調査」によれば,過去1年間にボランティア活動を行った人は2016年26.3%(コロナ禍2021年17.8%),つまり4人(5人)に1人に過ぎない。一方,「社会意識に関する世論調査」(内閣府)によれば,「何か社会のために役立ちたい」と思う者は,約6~7割である(2016年調査65.0%,2023年調査最新64.3%)。ボランティア行動者層と社会貢献意識を持つ層とで単純比較はできないが,日本人の3~4割は「潜在的ボランティア」層と推測できる。
 一般にボランティア層は,「(顕在的)ボランティア」層(現役で活動),「潜在的ボランティア」層(経験者含む),「無関心」層の三種類に分類できる。ここでいう「潜在的ボランティア」とは,ボランティア行動には表れていないが,何らかの活動へ参加・参画する可能性が高い層である。これまでのボランティア推進策は,「潜在的ボランティア」層と「無関心」層を同レベルに扱った啓発活動が主流であった。しかし,本稿では「潜在的ボランティア」に着目し,彼らがどうすれば「潜在から顕在」へ移行するかを重視したい。また,日本人の多くが何らかの社会貢献意識を持っているが,ボランティア行動には結びつかない,意識と行動のズレこそ注目すべき点である。

3.市民が考える「ボランティア」イメージと固有ニーズ

 「潜在的ボランティア」層(約4割)に対して,いかなる条件や環境があれば活動へのインセンティヴを高められるのだろうか。

(1)市民が考える「ボランティア」のイメージ

 2014年調査では,ボランティアの記述分析(269名,記述件数1249点)を行った。
 ボランティアのイメージに関して「やりがい,生きがい」など「人間」に関わる項目が最も多い。次いで「交流,つながり,関わり,ふれあい」や「人助け,手助け,役に立つ,人のため」など「地域」に関わる項目が多く挙げられた。
 図1のボランティアへの発動・動因・要因ように,自分(個人)を取り巻く環境は「地域や土地への受容・同化」しながら,「人間が生きることへの関心・受容」と「社会の受容・同化」が輻輳していることが推論できる。その際,まずその「地域」の人とのつながり・交流や支え合い,歴史や文化・伝統,さらには自然(風や光などの気候)など,その土地を受け入れ,同化していく。そのためには,同じ目線に立って,一人ひとり異なった「人間」の生き様に関心を持ち,心が揺り動かされ,人間を受け入れ,受け止められる。また,「社会」の様々な課題を受け止め,何ができるのか思考して主体的に生きつつ同化していくプロセスが想定される。これらは,「潜在的ボランティア」の「条件設定」や「環境」を構造化する手がかりになるだろう。

図1 ボランティアへの発動・動機・要因(齊藤2019)

(2)年代・世代別にみた「潜在ボランティア」の固有ニーズ

 年代・属性別のボランティアの特徴や固有ニーズを捉えた。各年齢(若年層,中年層<独身層・子育て層>,高齢層)の当事者(29名)で2015年に協議・検討した。
 若年層は「誰かに感謝される」,中年層(既婚・子育て)は「共感し合える人間関係」,高齢層は「自分が必要とされる」など,世代に関わらず自己承認ニーズが目立った。また,「地域」関連では,特に中年層や高齢層が「仲間」「交流」「居場所」など共通した発言がみられた。一方,希望の活動内容に関して,若年層は「手軽な遊び感覚」,中年層は「異文化・異業種の交流」や「自己実現や達成感」,高齢層は「イベント性」などを挙げていた。調査から,自己の存在意義を「受け入れられる」「感謝される」「必要とされる」という自己承認ニーズは,すべての年代にとっても不可欠な要素だと考えられる。
 従って,世代・属性に応じた自己承認ニーズが高まれば,「潜在的ボランティア」が活動へ一歩踏み出し,地域で「仲間」や「居場所」を見つけ「交流」や「活動」につながる可能性が高まるものと考える。

4.「潜在的ボランティア」が活動に踏み出す条件設定と環境づくり

 「潜在的ボランティア」は,図2のように「地域」をベースに「人間」と「社会」の両面から構造的にとらえられる。「潜在的ボランティア」が活動に踏み出す「条件設定」と「環境づくり」のステップとして,「人間」「地域」「社会」の順に提示したい(齊藤2019:58)。
 第Ⅰステップの「人間」については,「人間が生きることへの関心・受容」を表し,自分をみつめ,自分を再認識することである。その前提として,「考え方」(個人の志向・生き様)と「人間」(他者との関係性)が要件となる。「考え方」としては,「やりがい,生きがい,達成感,充実感,自己満足,自分のため,自己成長,視野の広がり,自分を生かす,新しい世界,学び,経験・体験,行動,向上」や「思いやり,親切,優しい,愛,感謝,楽しそう,喜び,笑顔,幸せ」などのポジティヴな個人志向が前提条件となる。また,「人間」としては,「交流,つながり,関わり,ふれあい,仲間,出会い,コミュニケーション」や「人助け,手助け,役に立つ,人のため,助け合う,支え合う」など,「交流・対話」が伴い,「友人・グループで」活動できる環境を整備しておく必要がある。
 第Ⅱステップの「地域」については,「地域や土地への同化・受容」を行うことである。その土地に降り立ち,地域の伝統や文化,自然・風土などがどのような状況で蠢いているのか,地域のしがらみを含めて受け入れていかなければならない。時に自然災害などのインパクト・脅威にさらされ,宿命的に揺さぶられることもある。その際,この地域で自分にできることを考え,ボランティア行動へつながる。身近な地域で,特に高齢層には「必要とされる,承認される居場所」など拠り所が求められ,若年層には「学校での活動を促進」することによって活動が強化される。学校教育で活動を進めるにあたり,子ども・若者のボランティア上での課題を整理し,授業の一環として実施した場合,何が課題か,生活上の課題は何かを明示してボランティア支援の開発に結び付けるとよい。
 第Ⅲステップの「社会」については,「社会の受容・同化」を表し,未知なる社会を知る活動,社会に働きかける活動につなげることである。無償で「自発的・生産的」な活動(=ボランティア)において,自分に何ができるのか試されている。支援者が活動を導くにあたり,要となるのは「情報」「制度」である。この中でも「情報」は,特に年代に応じた環境づくりが必要であろう。例えば,「紹介・誘い・口コミ」「情報交換,居場所」や「説明会,紹介,見学,経験者の話」「学校における活動の促進」など,顔を突き合わせて情報を直接届ける方法が有効であろう。その際の条件として,地域では①個人志向に合う「多様な活動内容の企画」の選択肢があること,②短時間での活動・時間調整ができること,③近場でアクセスしやすこと,社会では①手続きが手軽で,ハードルが低いこと,②経済的負担が少ないこと,などが挙げられる。
 以上のステップを加味しつつ,ボランティアへの障壁を低くすることで,人々をボランティアに誘うことが期待できる。

5.ボランティアの新しい形にむけて:ボランティア活動の教育力

 今後,「潜在的ボランティア」が持つボランティアの現代的意味・意義を重視することによって活動の発展性が期待できる。その際「潜在的ボランティア」のニーズは,「地域」や「社会」のためだけでなく,「人間」の個人の願いや思いを重視したい。
 自分の満足,自分の勉強,自分の生きている存在感を意識したい等の個人のニーズは,既存統計では分析できないものである。そのため,「人に喜ばれたい」「自分の視野を広げたい」「自分の生きている存在感を意識したい」等の個人の充実を願うニーズが「潜在的ボランティア」に含まれていることに注意しなければならない。この個のニーズを踏まえることで,ボランティア層の対象幅を広げる可能性が高まる。

図2 「潜在的ボランティア」の活動へ誘う構造図(齊藤2019)

 リスキリングが世界的な潮流になっている今日,「ボランティア活動の教育力」を新しい学びや新たな社会変革に生かせないだろうか。人間の能力や技術は,生涯にわたり高まるものである。例えば,多様なボランティア体験を創造性や発想力を教育・訓練の場にすること,ボランティアをストレス解消と心の再生の機会にすること,社会課題をイノベーティヴな仕事の創出に生かすこと,等を提案したい。つまり,未来のボランティアには,サスティーナブルに人間の能力開花し,新たな仕事の創出につながるチャンスがある。
 これから生涯教育の視点からも,ボランティアの考え方を醸成していきたい。

引用文献

阿部志郎(1988)『ボランタリズム』海声社.
興梠寛(2003)『希望への力』光生館.
齊藤ゆか(2018)「NPOへの参加を導く : 市民をボランティアとして受け入れる条件とは何か」 (特集 NPO,これからの20年) 『地方自治職員研修』 51(12) ,pp.27-29.
齊藤 ゆか(2019)「『潜在的ボランティア』が活動に踏み出す条件設定と環境づくり」
『生活経営学研究』 54(54) ,pp.50-59.
齊藤ゆか(2022)『ボランティア評価学 : CUDBASを用いた評価指標の設定と体系化』ミネルヴァ書房. 広田照幸(2013)「『ボランティアを通じて学ぶ』ことをどうみるか」『日本福祉教育・ボランティア学習学会研究紀要』21,pp.27-36