プログラムオフィサー(PO)の役割と期待

大阪商業大学 公共学部 准教授
中嶋 貴子TAKAKO NAKAJIMA

略歴
大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程修了。博士(国際公共政策)。専門は非営利組織論、地域経営論、市民社会など非営利組織を取り巻く経営課題について、公共政策の視点から研究に取り組む。(一社)関西経済同友会、日本学術振興会特別研究員を経て2017年4月より現職。日本NPO学会理事。

POINT
・「プログラム・オフィサー」は、様々な分野の助成プログラムを支える職業である。
・実態調査からみえた日本のPO像は、最終学歴が大学卒が約6割、大学院卒が3割ほどと、他の職種と比較し相対的に高学歴で、他の職種での経験を有する人材であった。
・POの資質として、分析的思考、関係者とのコミュニケーション力、多様なステークホルダーと事業成果を共有したり協働したりする力が重視されている。

※本論文は、清水潤子・武蔵野大学人間科学部助教、菅野拓・大阪公立大学大学院文学研究科准教授との共同研究の成果の一部である。本論文は著者らが2022年及び2023年に開催された日本NPO学会で報告された内容を中心に抜粋し、加筆したものである。

1.はじめに:助成プログラムを支える「プログラムオフィサー」

 「プログラムオフィサー(Program Officer)」(以下、PO)という言葉を聞いたことがあるだろうか。助成金や研究費など、公募によって提供先が選定される助成金は「競争的資金」と呼ばれ、その財源には、政府や地方自治体から拠出される公的資金のほか、財団に寄せられた寄付や基金などがある。そして、それぞれの助成プログラムは、それぞれの助成団体において助成の目的や仕組みが検討され、設計される。助成プログラムに設定された審査基準や目的に応じてPOは、資金を必要とする団体や個人と資金のマッチングを行い、助成金として提供されるほか、助成金の監査や、助成期間終了後には助成の評価や資金の使途についてチェックなどを行う。団体によっては、助成の応募から助成期間中、助成後にも助成金の活用や団体運営に対する助言や支援が提供される場合もある。これらの支援は、助成の受け手に寄り添いながら助成プログラムの運営や組織の経営について助言が行われることが多いことから「伴走支援」と呼ばれる。
 では、この助成の仕組みを、誰が、どのように運営しているのか、考えを巡らせたことはおありだろうか。例えば、大規模な自然災害が発生した際には、短期間に膨大な寄付が寄付を募集した団体に寄せられるが、その寄付は、どのような流れを経て、被災地や被災者の支援活動に活用されているのだろうか。その一つの方法が助成である。助成プログラムを通じて助成を行う財団や基金などの助成元は、寄付者の意志に沿って、寄付金を必要とする支援活動や団体に助成を行うために、寄付に込められた寄付者の想いや助成団体が目指す助成事業の目的を実現できる能力を有する組織を選定し、財源とつなぐ役割を担っている。この助成プログラムの実施において、支援活動の源泉となる資金を適材適所に配分し、社会に循環させる仕組みを支えるのがPOである。
 オロズ・ジョエル,J.著『助成という仕事-社会変革におけるプログラム・オフィサーの役割-』(明石書店、2005年)では、タイトルのとおりPOを社会変革に不可欠な職業として取り上げている。また、POの職域は広く、助成によって支援を提供するグラントメーカー(grantmaker)に近しいがPOのすべての責任を代替して表現することはできず、特殊な仕事であるとする(オロズ2005, p.43)。それは、POの権限や業務の範囲は、助成元の組織や資金の財源によりかなり異なるからだ。POは、助成金の配分にかかわる業務のみならず、他の助成や公的資金では資金供給が行われていない領域を特定したうえで、社会に潜在するニーズと自発的な活動によってそれらの問題を支援しようとする活動者を見出し、目指す成果を得るために、活用に適した個人や組織を選定し、資金を提供する。そのため、助成プログラムや財源の拠出元、支援する分野によってPOに求められる役割は大きく異なる。
 POは政策としての科学技術振興に資する競争的資金の配分でも役割を担っている。例えば、アメリカの国立衛生研究所(NHI)には1,100名程度のPOが在席するというデータもあり、日本でも科学技術振興における資金配分団体の研究課題管理者としてPOの役割について検討が重ねられた経緯がある(独立行政法人科学技術振興機構, https://www.jst.go.jp/po_seminar/seido.html, 参照)。そのほか、NPOや社会的企業など、サードセクターへの助成にもかかわるPOは、公的財団のほか、企業財団、コミュニティ財団に属し、助成事業の企画から助成の実施、助成後の活動支援まで、様々な役割を担ってきた。くわえて近年では休眠預金等の活用においても注目を浴びる存在となっている。しかしながら、日本のPOについての研究蓄積はわずかであり、その業務の多様性などから、これまで実態が掴みにくいものとなっていた。
 そこで筆者らは、様々な組織で助成実務に従事するPOを包括的に調査することにより、日本のPOに求められる機能や役割について、日本国内のPOの協力を得て複数の調査を調査した。以下では、これらの調査結果から、日本におけるPOの現状やみえてきた課題の一部を紹介する。

2.日本におけるプログラム・オフィサーの歴史と職域

 先行研究から、日本の助成の歴史は古く、その起源は西洋的な慈善観が入る大正時代以前の江戸時代から存在したともされ、長きに渡り日本の市民社会を支えてきたことが分かる(林・山岡1984)。しかしながら、助成プログラムにおける専門職としてのPOに日本で焦点があてられることは少なく、その存在や役割についてよく知られてこなかった。その中において、Orosz.Joel, J.『Insider’s Guide to Grantmaking: How Foundation Find, Fund and Manage Effective Programs』(Jossy-Bass Inc., 2000)がオロズ・ジョエル,J.著、牧田東一監訳『助成という仕事-社会変革におけるプログラム・オフィサーの役割-』(明石書店、2005年)として刊行され、POの実務について詳細に紹介されたことは、日本においてPOという職業が知られる契機となっただけでなく、当事者であるPOにとっても自身の職域や役割を知る重要な手がかりになったと言えるだろう。同書に続き刊行された牧田東一著『プログラム・オフィサー―助成金配分と社会的価値の創出』(学陽書房、2007年)では、POの職域は、助成にかかわる一連の過程から助成後の評価まで細部に及ぶほか、その内容や責務の範囲には、国際的な国レベルの違いだけでなく、同じ国の助成団体間でも多様性があることが、アメリカ、イギリス、中国各国の助成制度や事例調査から示されている。
 牧田(2007)の冒頭では、POを「助成金の配分機関において、配分に関わる専門的な審査や評価の業務を行う職階」(p.11)であり、「プログラムに対する一定の権限を有する職階(オフィサー)」であることから、「プログラム・オフィサー」と称するが、一方で、POという職業は、フォード財団のような歴史ある組織に属するPOでさえも、周囲からは「よくわからない」ものであり、「孤独」(p.82)に陥りやすいとする。
 2000年代後半以降、コミュニティ財団の設立・発展、遺贈寄付の増加、インパクト投資の展開、休眠預金等活用法の施行など、民間非営利組織・事業の支援資金は多様化し、財団の活動を支えるPOに対する期待も高まっている。しかしながら、筆者らが実施した災害支援助成にかかわったPOらを対象とするヒアリング調査では、東日本大震災という未曾有の災害直後、これまでに経験のない規模やスピードで助成の実施が必要とされる中、他団体や組織内でのネットワークや情報共有の場が限定され、孤軍奮闘するPOも少なからず存在したことがみえてきた(Nakajima 2021)。この状況に対しては、2016年12月には、「GPON:助成実務者ネットワーク(Grant Program Officers Network)」が組織され、PO自身により組織の枠を超えたネットワークが構築されているほか、休眠預金の活用においては、PO研修による人材育成も行われている。

3.日本におけるプログラム・オフィサーの実態調査

 日本のPOに関する研究は、オロズや牧田の著書以降、独立行政法人福祉医療機構(2008)によるPO専門職養成等に係る調査事業報告などの蓄積がなされてきたが、POそのものについての研究は少なく、その多様な業務の実態把握や実践と研究の融合は限定されてきた。先行研究やヒアリング調査の結果、POは民間団体等への資金提供を担う人であるという大きな考え方に違いはないものの、組織や人によって、その意味するところや役割の認識、実際の活動内容には相当に差異があることが浮き彫りとなった。この結果をふまえて、POの職務や実践の全体像を把握する数量調査を通じて、日本のNPOセクターにおいて特に事業への資金提供を行っているPO像を明らかにし、今後のより効果的なPO支援や基盤整備に向けての示唆を得ることを目的として日本国内で助成プログラムを担う担当者らに聞き取りを行いながら、主要なPO業務を担うと想定される人々を対象にアンケート調査を実施した(注1)。調査結果については、「日本におけるプログラムオフィサーの実態把握集計結果報告書(速報版)」を2022年12月に公開した。
 特徴的な結果として、典型的なPO像は、最終学歴が大学卒約6割、大学院卒3割ほどであり、他の職種と比較し相対的に高学歴で、他の職種での経験をもち、その2/3 程度はPOになる前に民間非営利セクターで勤務した経験がある人物で、7割ほどはフルタイムの正社員として働いていた。また、POの業務の内容として、プログラムの開発や修正、募集・申請の受付、助成先の監督管理やモニタリング、非資金的支援、助成終了時の監査、助成後のフォローアップ、自組織のスタッフの管理・監督、自組織の人材育成、自組織の広報・ファンドレイジング、その他の管理業務という項目で、PO としての全従事時間を 100%として、それぞれの割合を聞いたところ、非資金的支援(伴走支援)にかける時間数(中央値)が一番多いことがわかった。一方で、同項目の標準偏差は高く、回答にばらつきがあることもわかったほか、全項目において最小値は0であり、POによっても従事している業務の内容に差がある可能性も示唆された(図表1)。
 伴走支援に関しては、資金提供先の伴走支援として実施していることとして多く回答を集めたのは、事業展開に関する助言(86人)、先進事例や団体の紹介・情報提供(84人)、連携・協働先の紹介(83人)であったが、最も重視していることとしては、事業展開に関する助言(71人)、資金調達に関する助言(35 人)、団体を健全に運営する体制や仕組みにかかわる助言(33 人)が上位3つのカテゴリとなった(図表2)。このように、POは限られた財源を市民社会セクターに配分するだけなく、助成プログラムを通じて、助成先の組織や助成プログラムの成果をより高めるための基盤強化(キャパシティービルディング)や経営持続性の支援に至るまで、ミクロレベルのサポートを提供する役割も担っている。

図表1 POの業務内容(N=106)
図表2 伴走支援について
(N=106:最も重視していること、N=105:実施していること)

4.おわりに:これからのPOへの役割と課題

 今回の調査の結果、日本のPOの職域や業務にも多様性がある一方、個々のPOが重視する視点や伴走支援の実践状況には共通する側面があることもみえてきた。ただし、本調査では、休眠預金にかかわるPOとコミュニティ財団など地域性を重視する団体、特定の分野や社会課題に対する支援を目的とするものなど、そもそもの助成団体や助成プログラムの目的や性質が異なることも伺えたことから、助成プログラムや助成団体の性質別に共通性や課題を抽出したうえで議論を深める必要がある。これについては、2023年の日本NPO学会において複数の団体からPOを招いたパネルセッションを開催し、それぞれの助成団体が目指す助成の在り方や社会的課題に対する資金提供についてディスカッションを行った(注2)。
 さらに、筆者らは、ここまでに明らかにされたPOの資質や経験値をいかに次世代に引き継いで発展させていくかを検討課題の一つとしていることからPOに必要な考え方・能力・知識について、Dorothy A. Johnson Center for Philanthropyが作成したProgram Officer Competency Model(2021)の内容を尺度化し検討を試みた。その結果、日本のPOらは、特に、分析的思考にくわえ、関係者とのコミュニケーション力や、多様なステークホルダーと事業成果を共有したり協働したりする力を重視していることがわかってきた(Shimizu et al. 2023)。日本におけるPOの人材育成システムについては、各団体や休眠預金の活用によって認知も広まりつつある。POは寄付者と支援者・団体、受益者をつなぐ役割を担う。POという職業への理解や社会の認識が広まれば、市民社会セクターへの資金供給システムがより強化・発展されることも期待される。筆者らもPOや市民社会セクターにかかわる一端として、引き続き検討を重ねていきたい。

注1:調査名「日本におけるプログラムオフィサーの実態把握調査」(実施期間:2022年9月10日~10月7日、実施方法:Webアンケート形式、調査対象者:民間の非営利組織や社会課題の解決の現場等において、民間団体等への助成金をはじめとした資金提供に関わる業務をしている方、標本抽出方法:機縁法、回答数:106。

注2:2023年6月10日に開催された日本NPO学会第25回研究大会にて「日本におけるプログラムオフィサーの現在地―実態把握調査から考える―」と題したパネルセッションで報告された。パネルセッションでは、筆者らの研究報告のほか、パネリストに可児卓馬氏(公益財団法人京都地域創造基金)、山田絵美氏(特定非営利活動法人市民社会創造ファンド)、和田泰一氏(一般財団法人日本民間公益活動連携機構)、髙木陽子氏(一般財団法人日本民間公益活動連携機構)を迎え、各団体の助成プログラムとPOについて報告がありそれぞれの相違や共通点、課題等についてディスカッションが行われた。

参考文献

日本語文献
独立行政法人福祉医療機構(2008)『わが国の市民活動分野における助成活動に携わるプログラムオフィサー・ならびに募金活動に携わるファンドレイザー(ディベロップメント・オフィサー)等の専門職養成・研修プログラムに向けた(基礎的な)調査研究事業報告書』独立行政法人福祉医療機構。
林雄二郎・山岡義典(1984)『日本の財団:その系譜と展望』中公新書。
牧田東一編(2007)『プログラム・オフィサー―助成金配分と社会的価値の創出』学陽書房。
オロズ・ジョエル.J.著、牧田東一監修(2005)『助成という仕事-社会変革におけるプログラム・オフィサーの役割-』明石書店。

欧文文献
Dorothy A. Johnson Center for Philanthropy(2021)Program Officer Competency Model. https://johnsoncenter.org/competency-models/program-officers/(2023年1月10日閲覧)
Nakajima, Takako. (2021) “Disaster Relief Funding by Private Grants and POs: Actors Supporting “Paradise” After Disaster” Journal of Disaster Research, Vol.16, No.6, pp.1-4.
Shimizu, Junko., Sugano, Taku. and Nakajima, Takako. (2023) “What and who is a program officer in the grantmaking foundations in Japan?: Analysis of the comprehensive PO research” at 7th Annual ARNOVA-Asia Conference, 07/08/2023.