公務員の社会貢献活動とPublic Service Motivation

徳島大学大学院社会産業理工学研究部准教授
小田切 康彦YASUHIKO KOTAGIRI

略歴
同志社大学大学院総合政策科学研究科博士課程(後期課程)修了。博士(政策科学)。日本学術振興会特別研究員、同志社大学特別任用助教等を経て現職。専門は公共政策学、地方自治論、市民社会論等。主な著書に、『行政-市民間協働の効用:実証的接近』(法律文化社、2014年)、『地域力再生の政策学』(分担執筆、ミネルヴァ書房、2010年)、『市民社会論』(分担執筆、法律文化社、2017年)、『現代日本の市民社会』(分担執筆、法律文化社、2019年)、『新・公共経営論』(分担執筆、ミネルヴァ書房、2020年)、『ソーシャル・イノベーションの理論と実践』(分担執筆、明石書房、2022年)、Handbook on Asian Public Administration (Joint author, Edward Elgar Publishing, 2023)、等がある。

1.社会貢献活動は人材育成とどう関係するか

 公務員の本業以外での社会貢献活動が期待されているという。例えば、兵庫県神戸市や奈良県生駒市では、職員の兼業許可の運用形態のひとつとして、社会貢献を促進する制度を導入している。これは、職員が、そのスキルを活かして地域における課題解決に積極的に取り組むことを目的とした制度である。公務員の兼業には法的制限があるものの、多様で柔軟な働き方へのニーズの高まりや、人口減少に伴う人材の希少化を背景に、社会貢献のための兼業を促進しようとする取り組みであると理解できる。
 他方で、公務員の社会貢献活動に関しては、従来から、行政とは異なる側面から市民生活に触れることで自身の視野を広め、ひいては行政面でもより良い効果をもたらすものと考えられてきた(人事院1997)。すなわち、社会貢献活動は、公務員の人材育成の一環として重要視されてきた側面もある。もっとも、公務員は、日々、その仕事を通じて公共財に関わっている。ある意味、日常的に社会貢献活動を行っているわけであり、本業以外で社会貢献活動に時間を費やす動機は弱いという見方もできる(Brooks 2004)。公務員がプライベートで社会貢献活動を行ったとして、それが本業に対して良い効果をもたらすのか、また、人材育成と呼ばれるようなものにつながるのか、疑問が残る。
 以下、公務員のプライベートでの社会貢献活動が、本業とどう関係するのか、筆者が実施したアンケート調査結果を用いて分析を行ってみたい。具体的には、公務員の本業に関連するものとして、Public service motivation (以下、PSM)との関係に着目する。Perry & Wise(1990)によれば、PSMは、「公共部門の組織や制度に本来的かつ独自に内在する動機づけに対応した個人の性向」として定義される。PSMは、従来の合理的選択理論や伝統的な動機づけ理論では見落とされていた公務員の利他的、規範的な側面を扱うモチベーション理論として注目されている(田井2017)。欧米では、ボランティア経験とこのPSMの高さが関連するという研究がある(Perry et al. 2008)。日本の場合はどうだろうか。

2.ボランティア経験とPublic service motivationとの関係

 分析に用いるのは、2021年2月に実施したインターネットによるアンケート調査データである (小田切2021)[1]。まず、公務員の社会貢献活動の一例として、ボランティア経験についてみてみたい。アンケート調査では、ボランティア経験に関して、「あなたは、公務員としての業務以外で、ボランティア活動をしたことがありますか。直近の1年間(2020年4月~2021年2月)とそれ以前(2020年3月以前)の状況に分けてお答えください」という質問に対し、「直近1年間に活動した。また、それ以前にも活動したことがある」「直近1年間に活動したが、それ以前に活動したことはない」「直近1年間は活動しなかったが、それ以前に活動したことがある」「今まで全く活動したことがない」という4つの選択肢によって回答を得た。集計結果は図1の通りである。6割弱がボランティア経験者である。
 次に、PSMについてである。PSMを測定するための尺度については、現在のところ合意がないが、表1の通り、Kim et al.(2013)の16尺度を用いて調査した。各質問に対して、「とてもそう思う」「そう思う」「どちらともいえない」「そう思わない」「全くそう思わない」の選択肢で回答を求めた。ここでは、これら16項目について主成分分析を行い、算出された第1主成分の主成分得点をPSMスコアとした[2]。このスコアが高いほど公的職務に「やりがい」を感じると想定する。

図1 公務員のボランティア経験(n=968, %)
表1 PSM尺度(Kim et al. 2013)と主成分負荷量

 以上、ボランティア経験別のPSMスコアの平均値を示した結果が、図2である。結果からわかることは、第1に、過去に全くボランティア経験のない回答者に比べ、過去に経験を持つ回答者のPSMスコアが高いことである。ボランティアを行う公務員は、職場での意欲も高いといえる。第2に、ボランティア経験者のうち、直近1年間のみの経験者(それ以前に経験はなし)のPSMスコアは、それ以外の経験者に比べて低い点である。ボランティア経験者であれば誰でもPSMが高いというわけではなく、その経験の時期や頻度等もPSMスコアに関係しているようである。

図2 ボランティア経験別のPSMスコア

3.寄付経験とPublic service motivationとの関係

 公務員の社会貢献活動の一例として、寄付経験についても分析してみたい。アンケート調査では、寄付に関して、「あなたは個人として寄付をしたことがありますか。直近の1年間(2020年4月~2021年2月)とそれ以前(2020年3月以前)の状況に分けてお答えください。」という質問に対し、「直近1年間に寄付をした。また、それ以前にも寄付をしたことがある」「直近1年間に寄付をしたが、それ以前に寄付をしたことはない」「直近1年間は寄付をしなかったが、それ以前に寄付をしたことがある」「今まで全く寄付をしたことがない」という4つの選択肢によって回答を得た。集計結果は図3の通りである。寄付経験者の比率は、ボランティア経験者よりも若干高く、6割を超えている。

図3 公務員の寄付経験(n=968, %)
図4 寄付経験別のPSMスコア

 図4は、寄付経験別のPSMスコアの平均値を示している。PSMについては、前述と同様のスコアを使用した。ボランティア経験の場合とほぼ同様の結果であり、第1に、過去に全く寄付経験のない回答者に比べ、過去に経験を持つ回答者のPSMスコアは高い。つまり、寄付を行うような公務員は、職場での意欲も高いことがわかる。第2に、寄付経験者のうち、直近1年間のみの経験者(それ以前に経験はなし)のPSMスコアは、それ以外の経験者に比べて高くない点である。寄付についても、その経験の時期や頻度等がPSMスコアに関係しているようである。

4.社会貢献活動と人材育成の接続を

 以上、日本の公務員における社会貢献活動経験は、PSMの高さと関連しているようである。さらには、PSMは職務パフォーマンスの向上をもたらすとの研究結果もみられることから(林他2021)、社会貢献活動と職場での働きぶりとのポジティブな関係性も想定できるかもしれない。もっとも、本稿での分析結果と、PSMの高さが人々の成長過程における家族の影響(家族のボランティア経験や教育等)と強く関連しているとの指摘(Perry et al. 2008)を踏まえると、社会貢献を行えばPSMが高まるというような単純な図式ではなく、過去の社会貢献の経験が中長期的にPSMに関係しているようにも思われる。
 冒頭で述べた神戸市や生駒市の事例をはじめ、公務員の社会貢献を促進するための制度化が進展している。しかし、これらの制度の多くは、不足する地域公共人材を埋めようとする背景から職員を外部へ送り出すことが焦点化する一方で、社会貢献活動を通じた職員の人材育成とは必ずしも接続していない。職員の働きぶりと関係する社会貢献活動を人材育成制度と結び付けることの重要性、そして、そのための中長期的な実践について注視すべきだろう。
 本稿の分析に用いたアンケート調査は、新型コロナウィルス感染症拡大による社会状況下で実施したものである。また、PSMに影響を及ぼし得る各種要因もコントロールしていない。平時との違いも含め、知見の一般化に向けて継続的な検証が求められる。

参考文献

Brooks, A. C., (2004) The effects of public policy on private charity. Administration & Society, 36(2), 166-185.
林嶺那・深谷健・箕輪允智・中嶋茂雄・梶原静香(2021)「公共サービス動機づけ(Public Service Motivation)と職務満足度等との関連性に関する実証研究 : 最小二乗回帰と分位点回帰による特別区職員データの分析」『年報行政研究』(56), 165-188.
人事院(1997)『平成8年度 年次報告書』
Kim, S., Vandenabeele, W., Wright, B. E., Andersen, L. B., Cerase, F. P., Christensen, R. K., Palidauskaite, J., Leisink, P., Liu, B., Palidauskaite, J., Pedersen, L. H., Perry, J. L., Ritz, A., Taylor, J., De Vivo, P., & Desmarais, C. (2013) Investigating the structure and meaning of public service motivation across populations: Developing an international instrument and addressing issues of measurement invariance. Journal of Public Administration Research & Theory, 23(1), 79-102.
小田切康彦(2021)「公務員における社会貢献活動の実態―アンケート調査に基づく基礎的考察―」『社会科学研究』35, 1-15.
Perry, J. L. & Wise, L. R. (1990). The Motivational Bases of Public Service. Public Administration Review, 50(3), 367-373.
Perry, J. L. & Brudney, J. L., & Coursey, D., & Littlepage, L. (2008) What Drives Morally Committed Citizens? A Study of the Antecedents of Public Service Motivation. Public Administration Review, 68(3), 445-458.
田井浩人(2017)「Public Service Motivation研究の到達点と課題」『九大法学』114, 162-212.


[1] アンケート調査の回収数は1081だが、このうち、特定の質問に回答拒否のあった回答者を除く968が分析対象となっている。調査方法、質問項目、調査結果の詳細等は、小田切(2021)を参照されたい。
[2] Kim et al.(2013)は、12か国で国際的にテストされた4次元・16項目からなるPSM尺度を提案しているが、とくにアジア圏での適用を考慮しており、日本での測定に適していると推察された。なお、尺度の信頼性係数は、α=0.928であった。