明治大学経営学部 教授
小関 隆志TAKASHI KOSEKI
略歴
一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。明治大学経営学部専任講師・准教授を経て現職。専門はソーシャル・ファイナンス(社会的金融)、特に金融包摂。主な著書に『金融によるコミュニティ・エンパワーメント』(ミネルヴァ書房)、『生活困窮と金融排除』(編著;明石書店)。日本協同組合学会副会長。
POINT ・コミュニティ財団は、多様な寄付金を集めて、特定の地域のために助成金を配分する寄付仲介事業である。 ・日本には2023年12月時点で、活動中のコミュニティ財団/基金が48あり、休眠預金事業に参画する財団も多い。 ・世界のコミュニティ財団の大半が欧米諸国に集中しており、アメリカの財団は全体として大規模である。 |
1.コミュニティ財団とは
コミュニティ財団と聞いてピンと来る人は、日本では多くないかもしれない。全国コミュニティ財団協会(1)によれば、コミュニティ財団は「地理的な『コミュニティ=地域』を特定して、複雑かつ重層的に絡み合う地域の諸課題を包括的な視座に立って事業対象とし」、「予防的な対応を含む有効な事業に対して、資金をはじめとする資源を仲介・提供し、ひいてはその地域内の多様な背景を持つ住民の暮らしの質を高めるために貢献する組織」であるという。Council on Foundations(2)によれば、コミュニティ財団とは、特定の地理的範囲に住む人々の生活を改善することに専念して助成を行う公的チャリティであって、個人・家族・企業からの財源を統合してコミュニティの効果的な非営利組織を支援する組織だという。従来の助成財団との主な違いは以下の点だといえよう。
(1) 資産家や企業など単独の財源によらず、多様な財源から成っている。
(2) 特定の地域に活動範囲を限定している。
(3) その地域の関係者の合議に基づいて運営される。
ここでいう「特定の地域」とは、どの程度までの広がりを意味するのだろうか。コミュニティ内部での相互扶助という感覚からすれば、「顔の見えやすい地理的範囲」(茶野2006:19)を想像するかもしれないが、たとえばニューヨーク・コミュニティトラストはニューヨーク市と周辺の3郡という広い地域を対象としている。国内では都道府県単位の例が比較的多いが、狭いものではニュータウンに限定した例(泉北のまちとくらしを考える財団)があり、広いものでは全国を対象とする例(大阪コミュニティ財団など)もある。大阪コミュニティ財団は大阪府内に限定されていると思いきや、実際には「主として大阪府及びその周辺府県を中心に日本国内の団体等」を対象と定めている(実際、助成先にはアジア諸国なども含まれる)。日本やアジアというのもひとつのコミュニティとみなされるのだろうか。そうなると「地域限定」か否かというのはさほど意味をなさないようにも思えてくる。
アメリカのコミュニティ財団は、永続的な個別基金を集合的に管理する財団という概念だ。典型的なパターンは次のようなものだ。例えばある人が遺産を特定の基金としてコミュニティ財団に寄付したとする。財団は基金を運用して金利を稼ぎ、寄付者の希望に沿って、利息分を助成金として非営利組織などに配分する。基金の元本そのものは減らないので、永続的基金と呼ばれる。出口正之氏がコミュニティ財団を「マンション型財団」と称したのは、マンションの各部屋に個別の基金が「入居」して、財団の事務局(マンションの管理人に相当する)に基金の管理を任せ、手数料(家賃に相当する)を払うといったイメージである。資産家や企業が拠出する巨額の資金であれば、その資金の運用のために単独の財団を設立してもよいが、中規模の資金であれば、費用と時間をかけて単独の財団を設立するよりも、コミュニティ財団に基金を設置したほうが維持費用を節約できて効率的だといえる(大阪コミュニティ財団編1996:6)。
ざっくりまとめれば、「ひとつの財団を設立するほど大規模ではないが、ある程度まとまった資金」をいくつか集めて運用し、ある地域のために非営利組織などに助成金を配分するのがコミュニティ財団だといえよう。ただ今日では、資金の種類は極めて多様化している。代表的な種類としては以下のようなものが挙げられる。
(1)冠(かんむり):まとまった額の寄付の場合、寄付者の名前を冠した基金を設置し、寄付者の意向に基づいた趣旨とテーマ(奨学金や文化振興など)に限定して助成プログラムを行い、助成先を公募する。財団が独自に助成先を選定する(寄付者が意見や要望を出せる場合もある)。これが「マンション型財団」に最も近いタイプである。
(2)テーマ別:特定の分野や地域課題(教育、災害復興、環境など)の助成プログラムを行い、助成先を公募する。財団が独自に助成先を選定する。茶野(2006)は、寄付者によって使途を特定された「マンション型」の基金よりも、財団が使途を決められる一般基金のほうが、地域問題解決に柔軟に対応できると指摘する。なお、大阪コミュニティ財団(1996:167)は、コミュニティ財団は「多目的財団」なので、事業分野が国際交流や環境問題、まちづくりなどに限定するものは当てはまらないとの見解を示しているが、「分野無限定でなければならない」といった明文規定は筆者の管見の限りでは見当たらない。例えば子ども支援や文化芸術支援といった特定分野の財団も含まれるのではないか。
(3)特定の組織・事業の指定:寄付者が自らの寄付金の助成先を特定の非営利組織や事業を指定する。その場合、寄付金は財団を右から左に通り抜けるだけになるが、コミュニティ財団の多くは非課税で、寄付者にも税制優遇されることと、財団が知名度を生かして広報に協力し、多くの寄付を集められることが利点とされる。さらには、非営利組織が自力で寄付を集める際に、財団が有償で側面支援するということもある。そうなると、財団はもはや寄付金を非営利組織に配分する役割ですらない。クラウドファンディングサービスを提供しているのは9財団あり、なかにはきたかみ市民活動基金のようにクラウドファンディング機能のみを提供する財団もある。そうすると、もはやコミュニティ財団はクラウドファンディングのプラットフォームと何が違うのかという気もしてくる。
(4)他の資金:財団の運営にかかる費用に使うための寄付を別途求めたり、寄付金付き自動販売機を運営したり、チャリティ販売で売り上げを得たりする例がある。
(5)他の事業:コミュニティ財団は寄付金を募って助成金を配分する資金仲介組織だが、中間支援や投融資を兼営する財団(ささえあいのまち創造基金など)もあるし、中間支援組織が一事業部門として基金を設置する例(いばらき未来基金など)も少なくない。そうすると、コミュニティ財団は組織なのか事業なのか?という疑問も生じる。以下では、組織の一部門としての寄付仲介事業をコミュニティ基金と呼ぶことにしたい。
なおアメリカでは、基金の運用収益を配分する「永続型基金」が主流だが、日本では大阪コミュニティ財団を除いてほとんどなく、多くの財団は集めた寄付金を取り崩して助成している。アメリカと異なり、日本の公益法人の多くは元本割れリスク回避を資産運用の基本方針としているため(「公益法人の『資産運用規程』は何が問題か」(3);公益法人協会「『公益法人資産運用アンケート』結果報告書」2017年(4))、運用収益はほぼゼロに近い。公益法人制度の見直し論議の中で、公益法人による株式等への出資を緩和する意見も有識者会議では出されたが(新しい時代の公益法人制度のあり方に関する有識者会議「最終報告」2023年(5))、元本割れリスク回避の発想は日本人の中になお根強いため、有価証券による積極的な資産運用へと変化するにはなお時間を要するのではないか。
2.日本におけるコミュニティ財団の発展
日本で最初に設立されたのは大阪コミュニティ財団である。大阪商工会議所の幹部は、主務官庁からの厳しい指導監督の影響を受けず「自由な志をもってフィランソロピー活動を行いたい」と考えて模索していたところ、アメリカのコミュニティ財団の存在を知り、1990年にニューヨーク、クリーブランド、シカゴの各財団を視察した後、翌1991年に大阪コミュニティ財団を設立するに至った(大阪商工会議所編1996:157-158)。
その後長らく大阪コミュニティ財団が国内唯一の存在であったが、2008年の公益法人改革によって公益法人の設立が容易になったことから、2009年に京都地域創造基金が設立され、その後各地で設立が相次いだ(全国コミュニティ財団協会(6))と言われている。しかし改めて調べてみると、そうとばかりは言えないことがわかった。コミュニティ財団の定義にもよるが、2009年より前に草の根市民基金ぐらん(1994年設置)、しみん基金・KOBE(2000年法人設立)、みんみんファンド(2004年設置)、東京コミュニティー財団(2008年法人設立)など、いくつもの例がみられる。2000年代にはNPOバンクや市民風車、市民ファンドといった組織が各地に設立されており、髙木仁三郎市民科学基金のように、地域限定ではない例もあった。また2010年代以降に寄付型クラウドファンディングも発展したが、そうした市民寄付・出資の潮流の中にコミュニティ財団も位置づけられよう。
助成財団の歴史的な流れでみると、明治から戦前期までは、主に皇室や資産家により財団が設立された時代であり、戦後は企業系財団の全盛期であったが(林・山岡1984)、1990年代以降は一般市民の出捐によるコミュニティ財団の時代へと移ったといえる。
筆者が存在を確認できたコミュニティ財団/基金の数は表1及び図1のとおりである。活動中の財団/基金48のうち、全国コミュニティ財団協会の会員は27あり、また全国レガシーギフト協会(遺贈を促進啓発する組織)の会員は15ある。コミュニティ財団/基金の対象地域に全く含まれていない“空白県”は12ある。
現在のコミュニティ財団/基金の財政規模はどの程度なのだろうか。表2は、ウェブサイトで公開されている決算資料をもとに筆者が集計したものである。大規模から小規模まで幅広いが、他事業・休眠預金事業を除く寄付仲介事業の中央値(2021年度)は正味財産(年度末)1058万円、受取寄付金433万円、支払助成金589万円となっている。
一般論から言えば、コミュニティ財団/基金が対象とする地域の人口規模によって、集められる寄付金額は左右される。大阪コミュニティ財団編(1996:33)は、「コミュニティ財団の存在基盤となる都市圏には通常少なくとも25万人の人口が必要」と示しているが、25万人を下回る小都市を対象とした財団/基金が9もあった。近年、うんなんコミュニティ財団(島根県雲南市、人口4万人)のように人口が少ない地域での設立が目立つ。他方、東京に大規模なコミュニティ財団がないなど、必ずしも人口に比例した分布とはなっていない。
また、休眠預金事業の資金分配団体として事業展開する財団も急増している。休眠預金事業は、収入が寄付金ではないため、一般的な寄付仲介事業とは異質である。
全国コミュニティ財団協会が2014年に発足した当初から、コミュニティ財団が休眠預金の受け皿となりたいという野心や期待が関係者の間に満ちていた。鵜尾雅隆氏は、全国コミュニティ財団協会設立記念交流会(2014年10月)の鼎談で、「休眠預金の話も、私たちがいかに期待に応えられるかを真剣に考える必要があります。コミュニティ財団が受け皿となって地域の中で投資をしていく核になっていかなければなりません」と主張したが、実際に休眠預金事業が開始された後、多くのコミュニティ財団及び同協会が資金分配団体の候補として名乗りを上げた。
コミュニティ財団/基金のうち現時点で休眠預金事業の資金分配団体は18、過去に資金分配団体であったものは6で、全体の約半数を占める。最近は、コミュニティ財団の設立とほぼ同時に休眠預金事業を始めたり、休眠預金事業の一環としてコミュニティ財団の設立を支援したりする例が目を引く。そうした財団は、自力での寄付金調達よりも休眠預金事業が桁違いに大きいため、ほぼ休眠預金事業の受け皿機能と化しているようだ。
3.世界のコミュニティ財団
世界にはどのくらいのコミュニティ財団があるのか。Community Philanthropy Directory (7)に登録されている財団は2240あり、6割が北米、3分の1がヨーロッパで、欧米諸国に9割以上が集中している。世界各地のコミュニティ財団の発展経過はSacks(2000)に解説されている。ただし上記データベースに登録されていない財団も多い。
アメリカ合衆国には約4000のコミュニティ財団があり、年間収益は総計350億ドル、資産額は1530億ドルであるという(Cause IQ, “Community foundations”(8))。年間収益別の分布では25万ドル未満の財団が45%と多いが、中には1億ドル以上の財団も3%あり(2022年度)、その巨大さがうかがわれる。Council on Foundationの2021年度調査(CF Insights Survey Results(9))によれば、回答した全財団の総資産は1255億ドル、寄付金は198億ドル、助成金は124億ドルであった。
ヨーロッパのコミュニティ財団は、European Community Foundation Initiativeの調査(10)によれば、2022年時点で22カ国に850の財団が存在し、うち約半数の420はドイツにある。ヨーロッパの中で最も早く財団が設立されたのはイギリス(1975年)で、他の諸国は軒並み1990年代以降と若いが、発展のスピードと分布は国によって差が大きい。
4.コミュニティ財団に関する研究
国内では、コミュニティ財団に関する書籍は大阪コミュニティ財団編(1996)と木村(2017)がある。論文では天野(2013)、小沢(2014)、深尾(2014; 2015)、坂倉ほか(2022)などコミュニティ財団の事例紹介的研究が中心だが、国内の業界全体を見渡した研究や、寄付・評価・人材など特定のテーマや理論からのアプローチ、海外との比較研究などはまだごく少数にとどまる。欧米では研究が盛んであり、日本でも今後研究の発展を願う。
《脚注》
(1) 全国コミュニティ財団協会 https://www.cf-japan.org/about-cf/
(2) Council on Foundations https://cof.org/foundation-type/community-foundations
(3) 「公益法人の『資産運用規程』は何が問題か」 http://www.e-law-international.com/PublicInterest1.htm
(4) 公益法人協会「『公益法人資産運用アンケート』結果報告書」2017年 https://kohokyo.or.jp/files/research/report/docs/2017shisannunyou.pdf
(5) 新しい時代の公益法人制度のあり方に関する有識者会議「最終報告」2023年 https://www.koeki-info.go.jp/regulation/pdf/20230602_houkoku.pdf
(6) 全国コミュニティ財団協会 https://www.cf-japan.org/about-cf/
(7) Community Philanthropy Directory https://maps.foundationcenter.org/
(8) Cause IQ, “Community foundations” https://www.causeiq.com/directory/community-foundations-list/
(9) CF Insights Survey Results https://cof.org/cfinsights/results/2021/respondents
(10) European Community Foundation Initiative https://www.communityfoundations.eu/fileadmin/ecfi/knowledge-centre/Knowledge_Database/The_State_of_the_Community_Foundation_Field_in_Europe_2022.pdf
《参考文献》
天野敏昭(2013)「コミュニティ財団による市民メセナの評価と展望」『鶴山論叢』12/13
茶野順子(2006)「地域社会を支えるコミュニティ財団と地域ファンド」『月刊福祉』11月
深尾昌峰(2014)「市民性を支える『市民コミュニティ財団』の定義と役割」『龍谷政策学論集』3(2)
深尾昌峰(2015)「公共空間における市民ファンドの位置づけとそのソーシャルインパクト」『公共政策研究』15
林雄二郎・山岡義典(1984)『日本の財団』(中公新書)中央公論社
木村真樹(2017)『はじめよう、お金の地産地消』英治出版
大阪コミュニティ財団編・三島祥宏著(1996)『コミュニティ財団のすべて』清文社
Sacks, Eleanor W. (2000) The Growth of Community Foundations Around the World, Council on Foundations.
坂倉孝雄・森江建斗・比嘉将大(2022)「東近江三方よし基金」『人文×社会』8