なぜ日本人は寄付をしないのか

関西大学法学部 教授
坂本 治也HARUYA SAKAMOTO

略歴
大阪大学大学院法学研究科博士後期課程単位修得退学。博士(法学)大阪大学。琉球大学准教授、関西大学法学部准教授、UCLAテラサキ日本研究センター客員研究員を経て、現職。日本NPO学会副会長(2020~22年)。専攻は、政治過程論、市民社会論。主な著書として、『ソーシャル・キャピタルと活動する市民』(有斐閣、2010年 、 第9回日本NPO学会林雄二郎賞 、2011年度日本公共政策学会 奨励賞 受賞作 )、『現代日本の NPO政治』(共編著、木鐸社、 2012年)、『市民社会論』(編著、法律文化社、2017年 、 第 16回 日本 NPO学会 林 雄二郎賞 受賞作 )、『現代日本の市民社会』(共編著、法律文化 社、 2019年)、『ポリティカル・サイエンス入門』(共編著、法律文化社、2020年)、『寄付白書 2021』(分担執筆、日本ファンドレイジング協会、2021年) 。

1.日本における寄付の現状

 困窮者への支援、環境保護、文化芸術振興などの様々な社会課題を解決していくうえで、寄付は重要な原動力となる。いうまでもなく、寄付は被災者や難民などのニーズを必要とする人々に直接的な支援を届ける手段としてきわめて重要である。加えて、社会的ニーズに応えるために継続的に社会貢献活動を行う非営利組織を支える資金源としても、寄付はとても重要である。
 しかしながら、日本では積極的に寄付を行う者は現状では少ない。日本において欧米諸国のような豊かな寄付文化が存在している、とはいい難い状況にある。イギリスの NPO であるチャリティズエイド財団が発行する World Giving Index 2021(https://www.cafonline.org/docs/default-source/about-us-research/ cafworldgivingindex2021_report_web2_100621.pdf 2022 年 3 月 10 日アクセス)によると、「過去 1 ヶ月の間に慈善団体に寄付をした」と答えた者の割合は日本では 12%である。これは調査対象 114 カ国中 107 位の低水準である。Covid-19 のパンデミックで多くの人々が苦しんでいる最中においても、残念ながら日本は相変わらず「世界で最も寄付に冷淡な国」の1 つに位置づけられてしまっている。
 日本ファンドレイジング協会が発行する『寄付白書 2021』によると、2020 年の日本における個人寄付総額は 1 兆 2,126 億円と推計されている。集計すると、現状でもそれなりに大きな額の寄付が行われている。しかし、アメリカでは約 34 兆 6,000 億円の個人寄付があると推計されており、それに比べれば日本の寄付市場の規模はまだまだ小さい。さらなる成長の余地が残されているといえよう。
 『寄付白書 2017』における 2016 年の個人寄付総額は 7,756 億円であったので、この 4 年間で個人寄付総額は 1.56 倍に伸びている。しかし、これはふるさと納税を含めた額である。ふるさと納税分を除けば個人寄付総額の伸びは 1.10 倍にとどまっている。寄付白書の調査によると 1 年間に寄付を行ったとする者の割合も、2014 年 43.6%、2016 年 45.4%、2020 年44.1%となっており、横ばいの状態が続いている(日本ファンドレイジング協会編 2021)。
 著名人や富裕層の寄付がメディアで話題になるなど、日本でも徐々に寄付文化の広がりを感じさせるような現象は散見される。しかし、日本社会全体の寄付行動が大きく活性化する、というレベルにはまだまだ達していないようである。

2.7 割以上の人が寄付に対する不安感をもっている

 日本の寄付をより活発なものにするためには、何が必要なのだろうか。鍵を握るのは、普通の人々の意識変化およびそれを促すための制度改革である。
 じつは、社会のため、困っている他者のために、何らかの社会貢献をしたいと思っている人は多い。内閣府「社会意識に関する世論調査(令和 2 年 1 月調査)」(https://survey.gov-online.go.jp/r01/r01-shakai/2-1.html 2022 年 3 月 10 日アクセス)で「日頃、社会の一員として、何か社会のために役立ちたい」と答えた人は 63.4%であった。しかも、こうした社会貢献意識をもつ人は、以前よりも明確に増えてきている。にもかかわらず、寄付やボランティアなどの具体的な利他行動の活性化にまでは、うまく結びついていない。
 なぜ社会貢献意識があったとしても寄付を積極的に行わないのか。何が障害になっているのか。大きな原因の 1 つとして考えられるのが、寄付に対する強い不安感の存在である。図 1 は、『寄付白書 2021』で用いられている全国寄付実態調査の設問にある「寄付したお金がきちんと使われているのか不安に感じる」という意見についての賛否の回答分布を示したものである。
 回答者全体での集計をみると、「そう思う」36.3%、「どちらかといえばそう思う」40.9%、「どちらかといえばそう思わない」13.8%。「そう思わない」9.0%となっている。約 77%の人が寄付したお金が寄付先できちんと適切に使われているのかについて不安を感じている。これはかなり強い不安感といえよう。
 属性別に寄付に対する不安感を見てみると、女性、若年・中年層、高収入層、最終学歴が高校の人々の間で相対的に不安感が強く、逆に男性、高齢層、低・中所得層、最終学歴が大学・大学院の人々の間では相対的に不安感は弱い。しかし、属性による差はわずかなものであり、どういう属性においても 7 割以上の人が寄付に対する不安感をもっている。さらに、過去 1 年間に金銭寄付をした人の間でも、7 割以上が不安感をもっているのも注目される。現に寄付を行っている人の間でも、不安感はかなり強く見られるのである。
 「適切に使われるのであれば寄付してみたいが、寄付をした団体できちんと適切に使われるか不安で、なかなか踏み出せない」というのが多くの人々の本音だと考えられる。こうした寄付に対する不安感を軽減させる何らかの方策が必要である。たとえば、一般財団法人非営利組織評価センターが行っている「グッドガバナンス認証」(https://jcne.or.jp/gg)のように、第三者機関による信頼性が高い寄付先団体の認証評価の仕組みをより広範に構築していくことは、寄付に対する不安感を軽減させる方法として有意義だろう。