またやりたい!と思うイベントボランティアとは?-スポーツに着目した国際比較調査からの知見-

東北大学大学院情報科学研究科 准教授
岡田 彩AYA OKADA

略歴
なぜ人は、別にやらなくても日々の暮らしに特段支障のない、寄付やボランティア活動をするのだろうか。どのような情報を見ると、そういった行動を起こそうと思うか。このような問題関心のもと、社会学および政策科学の立場から研究に取り組んでいる。PhD(国際公共政策・米国University of Pittsburgh Graduate School of Public and International Affairs)。同大学Master of International Development課程修了、一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了、慶應義塾大学総合政策学部卒。同志社大学政策学部・助教、金沢大学国際基幹教育院・准教授を経て、2019年より現職。日本社会関係学会・副会長、日本NPO学会・理事、特定非営利活動法人 杜の伝言板ゆるる・副代表理事。

POINT
・現代社会の生活スタイルにマッチする形として、短期間で完結するボランティア活動に注目が集まっている。
・7カ国におけるスポーツイベントでのボランティア活動を比較すると、国によって、活動時間数や与えられた役割に違いが見られた。
・活動環境がある程度整備されたイベントでのボランティア活動は、満足度が高くなるものの、「またやりたい」という意図には必ずしもつながっていない。

1.現代社会にマッチする、短期完結型のボランティア活動

 「ボランティア活動をしたい!」と思っても、忙しい日々を送る中で、その時間を確保することが難しいと感じる人は多いだろう。実際、内閣府(2020)の調査では、ボランティア活動への参加の妨げとなることの第1位に、「参加する時間がない」がランクインしている。
多忙な毎日の中で、週1回や月1回など、他者のために時間やスキル、エネルギーを定期的に提供することは、そう容易いことではないと考えられる。
 そんな現代社会に生きる人々の生活スタイルにマッチしたボランティア活動のあり方として、エピソディック・ボランティア活動(Episodic Volunteering)という形態が注目を集めている。週末2日間、あるいは10日間だけなど、短期間で完結するボランティア活動である。地域の夏祭りや運動会、マラソン大会や野球の試合、音楽ライブ、災害発生後の被災地支援など、様々な場面において、エピソディック・ボランティア活動は行われている。米国のNancy Macduff が1990年に提唱したこの名称は、「はじまり」と「終わり」が明確であるという点から、「エピソード」という言葉に由来している(Macduff, 1990)。多忙を極める現代人が、時間的な制約を乗り越え、無理なく参加できるボランティアの形態として期待できるだろう。
 エピソディック・ボランティア活動は、ボランティアを募る側、すなわち行事やイベントの主催者にとっても、様々なメリットがある。例えば、観客誘導など、同じ作業に従事するアルバイトを雇う必要がなくなることから、運営コストの削減につながる可能性がある。通訳など、専門的なスキルをボランティアが提供してくれることもあるだろう。さらに、ボランティアが活躍することで、周辺のコミュニティからの支援につながったり、参加した人々の満足度を高めることも期待される(Smith et al., 2014)。
 短期間で完結するエピソディック・ボランティア活動は、ボランティアをする側にとっても、依頼する側にとっても、win-winな形態ということができるだろう。

2.スポーツイベントでのボランティア活動

 エピソディック・ボランティアが活躍する行事やイベントの中でも、特にその存在感が際立つのが、スポーツに関するものである。地域で開催される運動会や野球、サッカー、ゴルフの試合、マラソン大会など、全国各地で行われる数多くの行事やイベントでは、観客の誘導や会場の設営、清掃、アスリートの支援、メディア対応の補助など、多様な場面でボランティアが活躍している。東京2020オリンピック・パラリンピック大会でのボランティアの活躍は、連日報道されており、記憶に残っているという人も多いだろう。


 こうしたスポーツイベントにおいて、短期完結型のボランティア活動をした人々は、どのような活動に従事し、どのような経験をしたのか。ボランティアをコーディネートしたイベント主催者の対応を、どのように評価したのか。定期的なボランティア活動に比べ、参加へのハードルが低いと考えられる短期完結型のボランティア体験は、オリンピックでも盛んに提唱された「レガシー」、すなわち再びボランティアをしたいという気持ちに、どの程度つながっているのだろうか。
 この記事では、エピソディック・ボランティア活動に関する国際比較調査の一環として行われた、スポーツイベントでのボランティア活動に関する分析結果を紹介する(Okada et al., 2021)。この調査は、国際学会ARNOVA (Association for Research on Nonprofit Organizations and Voluntary Action )に属する世界各国の研究者が企画・実施したもので、主に2017年から2018年の間、同一の質問紙を用いて、世界19カ国でデータが収集された。その中には、スポーツイベントでの短期完結型のボランティア活動を行った回答者が多く含まれており、特に、フィンランド、ガーナ、インド、日本、スイス、タンザニア、米国の7カ国を対象とした分析が行われた。その結果、スポーツイベントでのボランティア経験には国によって差異があること、またボランティアの満足度と「またやりたい」という意図は、必ずしも関連していないという、興味深い知見が導かれた。以下では、その詳細を紹介する。
 なお、分析の対象となったのは、スポーツイベントで短期完結型ボランティアを行った、1,004名である。男女比は概ね半々であったが(男性49%、女性51%)、年齢は18歳から24歳が23%、45歳から54歳が21%で最も多かった。対象者の50%以上が、週1あるいは月1など、定期的な(periodic)ボランティア活動を行っておらず、短期完結型であるからこそ、ボランティア活動に従事できた層であると推測された。