非営利セクターに対する社会的支援の動向
ーNPO法人の寄付収入の変化を視点にー

宮城大学事業構想学群 教授
石田 祐YU ISHIDA

略歴
関西学院大学総合政策学部、研究科博士前期課程、大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程修了、博士(国際公共政策)。ひょうご震災記念21世紀研究機構研究員、国立高等専門学校機構明石工業高等専門学校准教授、宮城大学事業構想学群准教授などを経て現職。最近の研究成果は、『政策起業家が社会を変える―新たなソーシャルイノベーションの担い手』(ミネルヴァ書房、2022年、共訳)、“Why Businesses Give: A Case of Foundation’s Long-Term Disaster Relief”(Journal of Disaster Research、2021年、共著)、「震災復興とNPO―公共サービスの供給主体としての課題」(公共選択、2019年)など。その他、宮城県公益認定等委員会委員、仙台市協働のまちづくり推進委員会委員、宮城県栗原市行政改革アドバイザー(市民協働分野)、認定NPO法人杜の伝言板ゆるる代表理事、日本NPO学会会長、日本社会関係学会『社会関係研究』編集委員長などを務め、実践者と研究者の協働による実践研究コミュニティの構築を目指している。

1. はじめにーNPOが寄付を必要とする理由 

 NPOは、民間企業に比べると、活動するための資金をさまざまな財源から獲得する必要がある。あるいは、さまざまな財源から資金を獲得できるとも言える。民間企業は、財やサービスを販売するマーケティング収入を主とし、活動予算を獲得する。かたやNPOはどうか。やはりNPOも同じように、財やサービスを供給し、その対価を得て活動を行っている。しかし、NPOはマーケティング収入だけでは成立しないことが多い。

 また、政府や自治体が供給する公共財や公共サービスは、排他性(料金を支払わないと利用できないこと)や競合性(誰かが消費すると消費できなくなること)の性質を確保できないことから、利潤を生みだせないのが一般的である。民間企業は、利潤が生み出せないのであれば、世の中にニーズがあろうとも、その市場に参入するような意思決定を行わないのが一般的である。そのニーズが公共的なものであれば、政府や自治体が国民や市民から税金を徴収し、それらに応じようとする。 

 しかし、税金という仕組みをもってしても、社会にある公共的なニーズを何でも、すべて満たすというのは現実的ではない。つまり、公共財・サービスとしてのニーズがあるものの満たされないものが社会には存在することになる。そこにNPOの活動スペースが現れ得るというのが、公共財理論にもとづくNPOの存在意義の説明である。端的にまとめれば、民間営利企業および政府や行政が供給しないものをNPOが供給することになる。言い換えると、NPOは、政府・自治体のように税金という強制的な仕組みを持たず、また民間営利企業が参入を検討しない利潤を生み出しにくい市場に参入することになる。 

 したがって、NPOの活動の中には、財やサービスを提供する相手(受益者)から対価相当額を得られないこともある。例えば、ホームレスや子どもの貧困などの社会課題では、支援に対する支払いは望みにくい。このとき、政府・行政やNPOのサービス供給について、一般的に、人件費が考慮されないことが多いように感じる。政府・行政の場合は、税金を原資とするため、個々の事業を計画する際、コストに人件費を丁寧に考慮しないでもよいかもしれない。しかし、NPOの場合、コストと人件費については、民間営利企業と同じように考えなければならない。人件費を含め、事業にかかるコストを上回る収益がなければ、事業の継続は難しい。 

 このように説明すると、「そもそもボランティアではないのか?」という質問を受けることも多い。もちろん、ボランティアで活動をする団体や人々もいる。それはそれでうまく回っているのであれば問題ない。しかしながら、すべてをボランティアに依存すると、サービスが継続しない可能性が高まる。また、資金をかけた事業計画を立てたり、専門的な知見やスキルを活用した支援を行うことが難しい。ボランティア団体でも事業を実施するためには資金が必要である。人件費分はボランティアでもよいかもしれないが、事業にコストがかかれば、その資金を獲得する必要がある。 

 ボランティア団体であったとしても事業にかかる資金を検討しなければならない。人を雇用しているNPOではなおさらであり、さらに事業を推進するための人件費を第一に考慮しなければならない。つまり、ホームレス支援や子どもの貧困対策において、事業に費用がかかるのに対価が得られないときは、他のどこからか資金を獲得しなければならない。獲得できなければ、予算に対して資金が足りず、活動を実施したり、継続することができない。 

 したがって、社会や地域の困りごとやニーズはあるけど十分な資金をもたないNPOは、その解決のために協力してくれる人を探す。例えば、活動に共鳴し、ボランティアとして時間を提供してくれる人や、寄付者としてお金を提供してくれる人を探す。近年、その方法が多様化しているが、活動に共感した人々から支援をしてもらえるのはNPOの特徴でもある。一方、寄付が勝手に振り込まれてくることはほとんどない。活動を知ってもらうための広報を行ったり、依頼や交渉を行うなどのアウトリーチも必要である。 

 日本語では、「ボランタリーの失敗」や「NPOの失敗」と呼ばれることが多いが、“Voluntary Failure” (Salamon, 1987)の議論のように、市場や政府が失敗することがあるように、NPOなど自発的行動を主とする仕組みでもうまくいかないことが論じられる。すなわち、NPOは、サービス供給の担い手としての未熟さを抱えたり、小規模な経済状態に陥りやすく、政府を補完したり、補助したりするには必ずしても十分ではない。実態に即して言えば、NPOは共感を得たくても、そのための活動を行う余裕やスキルが十分でないため、寄付を集めるのも容易でない。 

 実際に「活動を行うために寄付を必要とするが、寄付を十分に集められない」という状況が発生しているのか。発生しているとすれば、自発性をきっかけに立ち上がる市民活動をベースとするNPOに当てはまりやすいと言える。そこで、本稿では、市民活動型になっていることが多いNPO法人を取り上げ、寄付がどれくらい市民活動型NPOに届き、活動資源となっているかについて明らかにすることを目的とする。そして、今後の非営利セクターと寄付の関係を探りたい。 

2. 分析データの構築 

 NPO法人の寄付収入を見る方法はいくつかあるが、すべての団体について見ようと思うと、内閣府の「NPOホームページ」([https://www.npo-homepage.go.jp](https://www.npo-homepage.go.jp))を参照するとよい。そのページの中に「NPO法人ポータルサイト」があり、そこで団体ごとの情報を見ることができる。特定非営利活動促進法の第29条でNPO法人は、事業年度ごとに1回、事業報告書等を所轄庁に提出しなければならない。また、同法第30条において、その事業報告書等を公開することが示されており、そのほか役員名簿や定款等を閲覧または謄写の請求に応じてそのとおりに対応しなければならないことになっている。そのようなことから、検索する(閲覧したい)人がWebサイトで見られるようになっている。 

 かたや、研究するには不便なところもある。団体ごとのPDFファイルをダウンロードしなければならない。また、必ずしも定まったフォーマットで記入されているわけではないので、統一できる項目に調整をしながらデータセットを作らなければならない。近年は、NPO法人会計基準の参考様式があるため、類似の様式で作成されている団体が多く、時間をかければ、誰でも分析が行えるようになったと言える。 

 本研究では、それらの過程を経て作成したデータセットを利用して分析を行い、考察する。このデータセットの構築の原型は、大阪大学大学院国際公共政策研究科の教授であった山内直人氏のプロジェクトにある(山内他, 2007)。開発当時、2003年度事業について事業報告書を提出した全国のNPO法人、12,509団体のすべての財務書類をデータベース化し、集計結果を示している(山内他, 2008)。また、そのデータセットを使った分析により、財源多様性や財務的持続性の指標や組織の評価について議論が行われている(石田, 2008; 田中他, 2010; 馬場他, 2010)。以来、NPO法人の認証数も増え、年度ごとに5万ほどの事業報告書が提出されていることから、全国のNPO法人を網羅する財務データベースを更新することはできなくなっている。 

 そこで本稿では、新たに宮城県および仙台市を所轄庁としているNPO法人のデータセットを作成し、当時のデータと比較する。2019年度事業の書類の提出を確認できた566団体のデータを用いる。2003年度事業については、全国を網羅したデータセットから宮城県のNPO法人を抽出した。219団体が対象である。当時から継続している団体、解散した団体、新たに誕生した団体などがあり、同一団体での比較にはなっていない。ここでは、非営利セクターに対する寄付の動向を考察したい。