非営利セクターに対する社会的支援の動向
ーNPO法人の寄付収入の変化を視点にー

4. 非営利セクターの社会的支援収入に関する今後の展望と課題 

 単純集計による分析ではあるが、多くの示唆を含んでいる。寄付や助成金については、獲得できている団体は、2003年度も2019年度も変わらず半数の団体に満たないことがわかった。また、会費は中央値が0円ではないものの、平均値や中央値は2時点の変動で見ると下がっている。これらの点を考慮すると、まだ社会的な支援を受けて活動できていない団体は多く存在することがうかがえる。また、比率(図1)で見たときに、会費の低下が顕著であることも含めると、団体を日常的に支援する正会員や賛助会員を継続的に確保できていなかったり、新たにアプローチすることが十分にできていないことも推察される。これらは、NPO法人における今後の課題であると言える。 

 一方、展望としては期待される面もある。合計(表1)で見たとおり、どの項目も総額としては増加している。つまり、社会としてずっと多くの資金を非営利セクターに投じていると言える。また、団体数の増加を考慮しても、平均値から見れば、会費も寄付も助成金も多くの団体が2000年台前半に比べて多く獲得している傾向が見える。経常収益の中央値を見ても、2019年には5百万円を超えており、半数以上の団体が正規職員を置くことのできる規模になりつつある。専門的なスキルをもつNPOが増えていると言い換えることもできるだろう。 

 近年、「ソーシャル」を重視する傾向がビジネスでの成功者や民間営利企業でも高まっているし、一般市民や大学生でもその意識は強くなっている。それらのことを考えると、まだ非営利セクターを支援する潜在的な財源は多くあると考えられる。しかし、会員を集められない可能性もうかがえることから、寄付をどのようにして集めるかについても模索が進んでいない団体も多いと推察される。つまり、NPOもアウトリーチしていく必要がある。Salamon(1987)の議論に戻ると、その人材や能力に欠けることも想定されるが、当時の状況に比べると、ボランティアやプロボノで参加する人も増えたし、ICTの利用可能性も高まっている。それでもそう簡単に集められないのも事実である。支援したい人と支援を必要としているNPOのマッチング方法も進んでいるが、地方や目立たない団体には十分に届かないことも多い。さらなる仕組みの発展や団体の資金調達活動によって、NPOへの社会的支援はまだまだ伸びる余地はあるだろう。 

参考文献 

Salamon, L. M. (1987). Of Market Failure, Voluntary Failure, and Third-Party Government: Toward a Theory of Government-Nonprofit Relations in the Modern Welfare State. Journal of Voluntary Action Research, 16(1–2), 29–49. https://doi.org/10.1177/089976408701600104   

石田祐(2008)「NPO法人における財源多様性の要因分析―非営利組織の存続性の視点から」『ノンプロフィット・レビュー』8(2), 49-58. 

田中弥生・馬場英朗・渋井進(2010)「財務指標から捉えた民間非営利組織の評価-持続性の要因を探る」『ノンプロフィット・レビュー』10(2), 111-121. 

馬場英朗・石田祐・奥山尚子(2010)「非営利組織の収入戦略と財務持続性-事業化か,多様化か?」『ノンプロフィット・レビュー』10(2), 101-110. 

山内直人・馬場英朗・石田祐(2007)「NPO法人財務データベースの構築から見える課題と展望」『公益法人』36(4), 4-10. 

山内直人・馬場英朗・石田祐(2008)「NPO法人の財政実態と会計的課題-「NPO法人財務データベース」構築への取組みから」『非営利法人研究学会誌』10, 73-88.