ファンドレイジングにおける共感メカニズム

横浜市立大学客員研究員
瀬上 倫弘TOMOHIRO SEGAMI

略歴
 横浜市立大学大学院都市社会文化研究科博士後期課程単位取得退学、博士(学術)。博士論文タイトル「NPO法人のファンドレイジングにおける『共感メカニズム』についての考察-横浜市の事例研究からみた共感媒介要素と地域性-」。認定ファンドレイザー、社会貢献教育ファシリテーター。認定NPO法人こまちぷらす監事、認定NPO法人日本補助犬情報センター監事。本人に帰責性のない社会的弱者のエンパワメントが自身のミッション。研究テーマは非営利活動促進のための経済、政策、組織に関する考察とその体系化。

1.NPOとファンドレイジング

 急激な少子高齢化に伴い、世代間の希薄化、断絶と社会的課題の多様化、複雑化が著しい。一方で、社会保障の増大による財政的制約から、行政のみによる社会的課題の解決は困難となっている。こうした状況の中、NPO法人や公益法人など非営利セクターの活躍に期待が寄せられている。
 非営利セクターでは、様々な課題を抱えた地域において、住民の傍に寄り添い、多様な活動形態をとって支えることから、自立分散型のシステムが必要となり、個々の組織の形をとらざるを得ず、比較的小規模で多様な団体が存することになる。特にNPO法人は2022年5月時点で全国50,711法人に上り(内閣府NPOホームページ「特定非営利活動法人の認定数の推移」https://www.npo-homepage.go.jp/about/toukei-info/ninshou-seni 2022/7/15アクセス)、その存在意義は大きい。また、内閣府の世論調査によれば、NPO法人を「信頼できる」「どちらかといえば信頼できる」と評価した人は計71.5%で、2013年の前回調査に比べ7.2ポイント上昇した。内閣府は「災害時のボランティアなどでNPOが活動する機会が増え、認知度が高まってきた」と分析する(2018年12月14日 日本経済新聞電子版記事「NPO『信頼できる』7割 内閣府調査」)。
 このようにプレゼンス、認知度の高まっているNPO法人ではあるが、その活動における資金不足については頻繁に議論される。内閣府によるNPO法人の実態調査によると、NPO法人の抱える課題で高い割合を占めたのは「人材の確保や教育」(認証法人62.0%、認定・特例認定法人66.7%)、「収入源の多様性の必要」(認証法人42.9%、認定・特例認定法人56.4%)である(「令和2年度 特定非営利活動法人に関する実態調査」https://www.npo-homepage.go.jp/uploads/R2_houjin_report.pdf 2022/7/15アクセス)。「人材の確保や教育」については、適材人員の確保と教育という求人・人件費との関係性が高い。NPO法人内においては、その組織運営において資金不足が課題となり、資金獲得のためのファンドレイジングの効果的な実践が必要とされている。

2.ファンドレイジングとは

 NPO法人などの非営利団体が本来目的とするところは、社会的課題の解決やビジョンの実現、新たな社会価値の創造などのミッションであり、ファンドレイジングはあくまでミッション達成のための手段でしかないはずである。だが、ファンドレイジングは単に資金調達の必要性からくる手段ということに尽きるのだろうか。
 ここでファンドレイジングとは、一般的にはNPO法人等が活動のための資金を個人・法人・政府などから集める行為を総称していう。同じく資金を集める行為であっても、投資家や企業に関連する資金集めの場合にはファイナンスの用語が使われることが多い。ファンドレイジングでは寄付や会費、助成金など支援獲得を指すが、狭義では寄付集めのみを指し、最広義では事業収入や融資など財源獲得全般を含める。
 日本語訳では資金調達とされることも多いファンドレイジングであるが、企業における通常の資金調達の意味とはやや異なる。企業における資金調達は、株式の発行による資本(自己資本)による調達と、社債の発行や金融機関からの借り入れなど負債(他人資本)による調達と解される。一方、NPO法人等が行うファンドレイジングでは、単なる資金集めの手段という意味を超え、社会的課題への理解や共感を通じての財源獲得と解されている。活動資金の調達という結果のみならず、その手段において自団体の活動が解決を目指す社会的課題への理解・共感といった要素が特徴的といえる。社会的課題への理解やその解決へのコミットメントなしに、闇雲に活動資金を調達することはファンドレイジングとはいえない。NPO法人等におけるファンドレイジングはフィランソロピー的要素をもった経済活動であり、単なる資金調達とは異なるのである。

3.ファンドレイジングと共感メカニズム

ファンドレイジングの特徴的要素である共感という点について、もう少し掘り下げて考えてみたい。NPOのマネジメント教本においては、ファンドレイジングを効果的に実践するために、その本質について次のように論じられている(パブリックリソースセンター 2012)。

個人や企業の寄付や支援を開拓するために「ファンドレイジングをする」ということは、「私たちはよいことをしている」「困っている人がいる」ので「お金を寄付(施し)してください」ということを単にお願いするという行為ではない。ファンドレイジングは、潜在的寄付者や支援元に対して、①社会に存在する問題(自分の団体が事業領域としている問題)についてしっかりと説明し、「共感」を得ること。②そして、その次に自分の団体が提案する「解決策」が、その問題を解決し得ることを納得してもらうこと。の2つを実現するプロセスである。


それでは、ファンドレイジングにとって必要とされる<共感>とは、いったいどのような現象なのであろうか。
 ファンドレイジングにおける<共感>についてその構造(メカニズム)を検証するために、共感についての研究者であるマーク・H.デイヴィスによる組織的モデルを参照する(Davis 1996)。デイヴィスは、社会・性格心理学の視点から、現在の共感研究についての集約を行い、共感の定義について先行研究を整理し、問題点を抽出して、共感の定義を概念的な枠組みに分類して組織的モデルを導いた。概要は以下のような内容になる。
 デイヴィスは先行研究を次のように整理した。現在では共感は同情と深く結びついたものとされているが、当初は別個の概念として扱われていた。まず同情は、ある強い情動の状態を経験している相手を見たときに「仲間感情」を経験する能力と考えられ、これは想像力によって生まれるとされていた。人間のような社会性を持つ種には、同じ種の相手を仲間にしようとする傾向があり、高い水準の社会的接触が維持され、相手との結びつきが繰り返されることにより、同情心が発達する。一方共感の概念は、ドイツ美学で使われた感情移入という用語に由来し、観察者が観察している対象に自分自身を投影する傾向を意味していた。この古い同情と新しい共感の概念の相違は、同情が受け身的であるのに対し、共感はより積極的・意図的で知的な試みであることである。また役割取得(相手の気持ちや立場を正しく捉えながら相手の身になって考えることができる状態)や脱中心化(自己中心的な思考から脱する過程)という他人について想像する認知過程を強調して共感を捉える見解も主張され、知覚的・認知的・感情的な役割取得が重視されるようになった。
 デイヴィスは、上記の共感の定義についての先行研究には2つの問題点があると指摘した。ひとつは、共感の定義が余分な意味を持ってきた点。余分な意味とは、共感という用語が、認知的(役割取得)・感情的(反応)両方の、また積極的・受動的のどちらをも含む現象を指すことに使われ続けていることである。つまり、多義的な要素を含む定義がなされているということである。もうひとつは、共感を過程(感情的反応・役割取得)と考えるか、結果として捉えるかについての混乱があるという点。共感の作用を過程(プロセス)と考えるか結果と考えるかについての対立である。この2つの問題点は、共感を多面的なものとして定義し、その研究が分割化(バルカン化)されていることに起因しているとデイヴィスは問題提起した。
 そこで、これまでの研究による理論的文脈(先行研究の経緯)を組織的文脈(整理・統合)に落とし込み、概念的な枠組みに分離した(モデル化)。すなわち、他人の経験についてある個人が抱く反応を、見る側の内部で起きる過程と、感情的・非感情的な結果からなる4つの構成概念に分類し、その構成概念の間の結びつきを強調して共感の組織的モデルを導いたのである(図1参照)。4つの構成概念とは、<先行条件>、<過程>、<個人内的結果>、<対人的結果>と説明される。

図1:共感の組織的モデル

 デイヴィスの研究を敷衍してファンドレイジングにおける共感のメカニズムを整理すると、次のような経路で、ファンドレイジングの結果としての寄付が行われると考えることができよう。



<先行条件>
見る側の共感能力、見る側に反応を引き起こす状況の強さ、見る側と相手の類似性

<過程>
共感的な結果が生み出される特定のメカニズム

<個人内的結果>
個人内的な結果としての共感的な配慮

<対人的結果>
相手に向けられる行動的反応としての寄付

4.共感メカニズムの具体的事例

 抽象的な概念操作が続いたので、ここで具体的事例を紹介して共感メカニズムを解説してみよう。
 筆者が監事を務める認定 NPO法人こまちぷらすは、横浜市戸塚区で、「子育てをまちでプラスに」をコンセプトに、子育てが「まちの力」で豊かになる社会を目指して活動する。孤立した子育てをなくし、それぞれの人の力が活きる機会をつくることをミッションとし、まちの中で我が事として子育てに関わる人を増やすこと、対話の場と出番をつくることに取り組んでいる(こまちぷらす公式ホームページhttps://comachiplus.org/ 2022/7/15アクセス)。こまちぷらすが営む事業の中心であるこまちカフェでは、特に孤立しやすい出産直後の赤ちゃんから未就園児の子どもを持つ親がリフレッシュできるよう、地域のボランティアによる見守りつきのランチを提供している。
 こまちぷらすが実施するファンドレイジングに「恩送りカード」というものがある。これは、南イタリア・ナポリのカフェで100年ほど前に始められた「恩送りコーヒー」からヒントを得て始めた仕組みである。送り主が指定した条件を満たしているカードを選んで、カフェ来店者がドリンクを送り主の厚意で一杯飲むことができる。手順としては、①送り主が1,000円でカードを1枚購入、②プレゼントしたい相手の条件を指定、③条件に該当する来店者はその券を使い無料でドリンクを飲める、④送り主へ返事を書く、⑤店内に配架、という流れになる。こまちカフェの恩送りカードは寄付付きとなっており、寄付の部分はこまちぷらすの活動資金となる。こまちカフェ内には、この恩送りカードが利用され送り主への返事が掲載されたカードが掲示されている。恩送りカードの利用者が、さらに恩送りカードを贈ることもある。恩送りカードを使った利用者が、さらに恩送りカードを購入して次の人に繋いでいくことで(ペイフォワードの発想)、送った人も送られた人も幸せな気持ちになってもらえるという仕組みである(瀬上・米田 2022)。
 ある恩送りカードには、次のような条件とメッセージが書かれていた。「(条件)受験生を持つお母さんへ (メッセージ)コロナでは休校が続き、学校説明会がたてこんで、本人はこの半年に対して不安を持っている…のはわかっているのに優しくなれない。受け止められる母親になりたいです。」この恩送りカードによる寄付を、上記ファンドレイジングにおける共感メカニズムの観点からみてみよう。恩送りカードの送り主は、「受験生を持つ母親」という特性をもっている(見る側と相手の類似性としての<先行条件>)。恩送りカードを購入することによって、その場にはいない人と、カードとその利用によるドリンクの提供を介して、繋がることができる(共感的な結果が生み出される<過程>)。そして、同じような状況・立場にある人と気持ちを共有し、また励ましたいという思いから(<個人内的結果>としての共感的な配慮)、恩送りカードの購入によりドリンクを贈り、寄付したのである(<対人的結果>としての寄付)。

<先行条件>
受験生を持つ母親

<過程>
恩送りカードを購入することによって、その場にはいない人と、カードとその利用による ドリンクの提供を介して、繋がることができる

<個人内的結果>
同じような状況・立場にある人と気持ちを共有し、また励ましたいという思い

<対人的結果>
恩送りカードの購入によりドリンクを贈り寄付する

どうだろうか、こまちぷらすの恩送りカードには、ファンドレイジングにおける共感メカニズムを見出すことができるのではないだろうか。
 このように、NPO法人等において実践されているファンドレイジングを検証してみると、その構造には共感メカニズムを見出すことができる。そこから演繹的に考えると、ファンドレイジングには共感を生み出すような要素を盛り込んでいくことが必要となろう。繰り返しになるが、社会的課題への理解やその解決へのコミットメントなしに、闇雲に活動資金を調達することはファンドレイジングとはいえず、共感がファンドレイジングにとっては何より重要である。その点を十分念頭に置いてファンドレイジングを実践する必要がある。

参考文献
パブリックリソースセンター編(2012) 『NPO実践マネジメント入門』東信堂.
瀬上倫弘・米田佐知子(2022)「子育てをまちの力でプラスに-横浜市戸塚区こまちぷらすの取組み-」『ノンプロフィット・レビュー』21(1+2), 145-150.
Davis,Mark H.(1996)Empathy: A Social Psychological Approach,Social Psychology Series(菊池章夫訳(1999)『共感の社会心理学―人間関係の基礎』川島書店).