国際比較から考える日本人の社会貢献意識

関西大学総合情報学部教授
松本 渉WATARU MATSUMOTO

略歴
東京大学大学院新領域創成科学研究科修了。博士(国際協力学)。大学院在学中に,日本財団ボランティア支援部でインターンを経験する。大学院修了後,情報・システム研究機構統計数理研究所助手および助教(この間一年弱ミシガン大学社会調査研究所客員研究員),関西大学総合情報学部准教授を経て現職。平成18年度日本経営学会賞(論文部門)受賞。第10回日本行動計量学会肥田野直・水野欣司賞(奨励賞)受賞。第7回社会調査協会賞(『社会と調査』賞)受賞。主な著書として『東アジア国民性比較―データの科学―』(分担執筆,勉誠出版,2007年),『Excelではじめる社会調査データ分析』(共著,丸善出版,2011年)『社会調査の方法論』(丸善出版,2021年)。

1.日本人の社会貢献意識は高いのか低いのか

 日本人の社会貢献に関する意識を調査したものとしては,内閣府の「社会意識に関する世論調査」 における質問「あなたは,日頃,社会の一員として,何か社会のために役立ちたいと思っていますか。それとも,あまりそのようなことは考えていませんか。」がある。1974年2月以来,継続的に調査されている質問である。この質問に対して「思っている」という回答は,1974年2月当初は35.4%しかなかったが,年を追うごとに(多少の上下変動をしながらも)増加し続け,2021年12月の調査では63.9%となり,もう一方の選択肢である「あまり考えていない」と答えた者の割合35.1%を大きく上回るようになった。1980年代半ば以降は,「思っている」が,「あまり考えていない」より一貫して高い割合を示している。
 「社会貢献意識」がこれだけ高まってきたのであれば,日本人の「社会貢献意識」は国際的に見ても高いのではないかと思いたくなる。思い起こせば,2011年3月の東日本大震災の際,当時の海外メディアは,物資不足の中,略奪などを起こさず,譲り合いながら,忍耐強く整然と行動する人々を絶賛していた。稲葉(2011)も,略奪等が横行したとされる2005年のハリケーン「カトリーナ」の際の米国の状況と対照的に言及している。
 しかし,ボランティアや寄付といった利他的行動の文脈での通説的理解は逆である。きりがないのでここでは具体的に列挙しないが,少なくとも1990年代~2000年代前半において成立していたと考えられる通説的理解では,日本は,米国と比べるとボランティア活動の頻度が少なく,時間も短い。また寄付も少ないとするのが普通である。敷衍して,日本よりも米国の方が,社会貢献活動が活発であるというのが自然な推測だったはずである
 社会貢献とNPO・ボランティア・寄付とは異なる概念であり,厳密にはイコールではないが,NPO・ボランティア・寄付という言葉を聞いて,多くの人が社会に貢献する典型的な活動・行為であるとイメージするのも事実であろう。国際的に比較するという観点で,社会貢献を論じようとするのは,そう単純ではなさそうに思われる。

2.意識の国際比較の方法

 もともと意識を国際比較することは,簡単なことではない。翻訳の問題もありえるが,そもそも比較したい概念の示す範囲が国によって異なるような場合や社会的な文脈によってニュアンスが異なるような場合など,比較可能性に疑念が生じてしまうからである。詳細は,拙著(松本,2021)などに譲るが,基本的には,比較を行う主要な事柄以外の条件をできるだけそろえる努力が必要になる。具体的には次の2つを行う。
(1)文化の連鎖的調査分析
(2)構造分析と単純集計の相補的な活用
 これらは,林知己夫らが確立していった手順である(林・鈴木,1997)。
 (1)は,多くの点で前提条件が異なると直接比較することが難しくなるので,違いが限られた意味のある比較を連鎖のように徐々につなげる「比較の環」によって,全体的な比較を実現しようとする方法である。
 筆者は,2007年度から2009年度にかけ,日本,米国,韓国の三カ国における国際比較調査「市民社会調査」 を行った。ボランティア活動,寄付,信頼,勤労観,政治意識,選挙,国際的交流などの質問項目を取り扱う社会調査(標本調査)である。偶然ではあるが,2011年3月におきた東日本大震災の直前の時期数年(2000年代後半)の意識と行動を調査しており,冒頭で述べたような問題意識について検討するのに適している。

図1 日米韓の連鎖的な国際比較

 この際,日本と韓国においては,面接調査を実施できたが,米国では電話調査となった。そこで,日本においては面接調査と電話調査の両方を実施することとし,図1のように日本の2種類の調査を通じて,日本,米国,韓国の3か国比較の意味を持ちやすいようにしてある。これは連鎖的な調査分析である。ちなみに最初から3か国で電話調査に基づく比較を行っていないのは,電話調査は若年層の回収率が著しく低いという欠点があるため,もともと3か国とも面接調査の実施を予定していたためである。なお,市民社会調査プロジェクトの調査方法の詳細は,松本(2011)などの報告書を参照頂きたい 。
 (2)は,単純集計を並べるだけでなく,データの構造の分析を通じて大局を把握した上で,集計結果を把握することである。本稿では,長くなるのでこのプロセスの説明を割愛して紹介するが,多重対応分析を用いて各調査の結果を分析した結果から,今回注目している質問項目については,比較の意味をなくすほどの独自性の強い構造を生じていないことを確認し,集計結果を比較することに意味があることを確認している(松本,2016)。

3.4種類の調査を用いた3か国の比較

本稿では,ボランティア活動へのイメージ(図では,ボランティアイメージ),初対面のボランティアへの信頼(図では,ボランティア初対面信頼)を尋ねた2つの意識項目とともに,ボランティア活動への参加状況に対する回答の結果を示しておこう(図2)。

図2 四種類の調査結果の要約

 1つ目のボランティア活動へのイメージとは,「ボランティア活動に対するあなたのイメージは,次のどちらに近いですか。もちろん,場合によって違うでしょうが,あえて言えば,どちらに近いでしょうか。」(日本調査での表現)と質問し,「1. ボランティア活動は,何か偽善的な感じがする」「2. ボランティア活動は,心から尊敬できる」の二択でいずれかを回答させる質問である。2つ目の初対面のボランティアへの信頼とは,「あなたがボランティア活動などに参加したとして,そこで初めて出会ったボランティアの仲間を信頼できますか。それとも初めて出会った人は用心した方が良いですか。」と質問し,「1. ボランティア活動に参加している人は,初対面の人でも信頼できる」「2. ボランティア活動に参加している人でも,初対面の人は用心した方が良い」の二択でいずれかを回答させる質問である。
 どちらの質問も,無回答が生じる場合があり,2つの回答割合を合計しても100%にはならない。そこで,図2では,肯定的な回答(前者の質問の「尊敬できる」,後者の質問の「信頼できる」)の%から否定的な回答(前者の質問の「偽善的な感じ」,後者の質問の「用心した方が良い」)の%を差し引いた値を調査ごとに示している。
 またボランティア経験の有無については,意識ではなく行動を尋ねる質問であるが,参考までに示している。調査によって尋ね方が異なるため,詳細は省略するが,経験ありの%から経験なしの%を差し引いて示している。
 日本調査の結果を,電話調査の場合と面接調査の場合を比較すると,3項目とも,電話調査の方が肯定的な傾向が強く出ていることが分かる。実は,面接調査と電話調査では,一般的に言って,電話調査の方が調査への協力率が低く,総じて回収率が低い。電話の方が断りやすいためと考えられるが,この調査の場合も同様である。そのため面接調査では,何かしら疑り深い人も調査に協力し,逆に電話調査の回答者は,そもそもお願いされたことに協力的な人が多く残っている可能性があり,面接調査よりも電話調査の方が割合としてみればある意味,社会貢献に前向きな人を多く含んでいる可能性が高いのである。
 このような点に注意を払いつつも,順に結果を確認しよう。
 ボランティアイメージについては,%の差は,米国調査で9割もあり,日韓両国のどの場合よりも目立って大きい。同じ面接調査である日本面接調査と韓国調査の比較では,有意な差が生じていないが ,日本調査同士において面接調査と電話調査では有意な差が生じてしまっている 。前述したような原因に加え,読み上げ式の電話調査で新近性効果(recency effect)と呼ばれる後ろの選択肢の回答確率が高められた現象も生じている可能性がある。
 初対面のボランティアへの信頼については,%の差は,米国調査のみが正の値(12%)で「信頼できる」の方が上回っており,それ以外の日韓の調査ではどれも負の値で「用心した方が良い」が上回っていた。米国調査も電話調査であるので選択肢1の回答比率が過大に出ている可能性もあるが,日本電話調査における結果との比較において,米国の方が日本よりも,ボランティア活動に参加している初対面の人に対しては,用心するよりも信頼できると考える人の割合が大きいことが確認できる。

4.日本人の社会貢献意識はどこに向かうのか

 ここまで検討してきた社会貢献意識の調査結果は,おおむね一つの方向を示唆している。それは,米国と日韓両国との際立った違いである。米国では,日韓両国に比べて,ボランティアに対して尊敬する人々が多く,初対面であっても信頼できると考える人が多く,ボランティアへの参加経験者も多いということである。
 ただし,この結果の受けとめ方には注意が必要であろう。というのも,個人の権利と公共の利益の関係についての質問(2択)では,日本や韓国では,「2.公共の利益のためには,個人の権利が多少犠牲になることがあっても,しかたがない」が「1.個人の権利をみとめるためには,公共の利益が多少犠牲になることがあっても,しかたがない」を上回っていたが,米国では逆で,個人の権利が公共の利益よりも優先される傾向が見られたからである(図3)。

図3 公共の利益と個人の権利

 図2の結果と考え合わせると示唆的である。質問文における公共対個人という文脈で,英語のpublic interestがどのように理解されるかは個人差もあるだろうが,少なくとも米国における利他的・慈善的行為は,あくまで自発的な(ボランタリーな)ものこそ尊重されることを表しており,日本や韓国における社会貢献は,公共の利益にかなえばよいのであって自発性を伴うことは二の次としてそれほど意識されていなかったのではないだろうか。
 社会貢献の意味は,幅広く,人によってその実現の仕方が異なっていることが影響していると考えた方がよさそうだ。筆者は,過去に自分自身と職場とを一体視しない人々の方が,職場とは別の場所で社会貢献を実現したり,利他的な行動を取ったりする可能性が高まるメカニズムの存在を指摘している(松本,2007)。日本人の社会貢献意識は,本当は高いのだが,実際に社会貢献を実現する手段としては,「ボランティア」のような形態ではなく,やりがいのある仕事を通じてなど,別の形が好まれるということなのではないだろうか。

※ 本稿で紹介した調査では,寄付についての項目もあったが,文字数の関係で省略した。詳しくは,松本(2016)を参照して頂きたい。国際比較調査の分析の仕方については,松本(2021)にも紹介しているので,参照いただければ幸いである。

参考文献

林知己夫・鈴木達三 (1997) 『社会調査と数量化―国際比較におけるデータの科学―(増補版)』岩波書店。
稲葉陽二(2011)『ソーシャル・キャピタル入門―孤立から絆へ―』中央公論新社。
松本渉(2007)「ボランティア活動や非営利組織への参加と就労観―JGSS-2005を用いたデータ分析―」大阪商業大学比較地域研究所・東京大学社会科学研究所(編)『日本版General Social Surveys 研究論文集[6] JGSSで見た日本人の意識と行動』,大阪商業大学比較地域研究所,pp.83-94.
松本渉(2011)『市民の政治参加と社会貢献の国際比較―総合報告書―』関西大学総合情報学部松本渉研究室。
松本渉(2016)「日本・米国・韓国における社会貢献の意識と行動の国際比較―二種類のモードからなる市民社会調査の連鎖的な比較―」『情報研究』第43号,pp.43-64.
松本渉(2021)『社会調査の方法論』丸善出版。
松本渉・前田忠彦(2008)『市民の政治参加と社会貢献の国際比較―日本調査報告書―』(統計数理研究所研究リポート97),統計数理研究所。
Matsumoto, Wataru & Maeda, Tadahiko (2008) Cross-National Comparison of Political Participation and Social Contribution: Japan Survey Report –English Edition–. (統計数理研究所研究リポート98),統計数理研究所。
Matsumoto, Wataru & Nikaido, Kousuke (2010) Cross-National Comparison of Political Participation and Social Contribution: USA Survey Report –English Edition–. (統計数理研究所研究リポート100),統計数理研究所。
松本渉・西舘崇・芝井清久・藤田泰昌・二階堂晃祐・山本洋(2010)『政治参加と社会貢献の計量分析―日本RDD調査の集計と日本面接調査の分析―』(統計数理研究所共同研究リポート248)統計数理研究所。
松本渉・吉野諒三(2009)『市民の政治参加と社会貢献の国際比較―米国調査報告書―』統計数理研究所。
松本渉・吉野諒三(2010)『市民の政治参加と社会貢献の国際比較―韓国調査報告書―』(統計数理研究所研究リポート101),統計数理研究所。