4.人助けの動機によっても評価は変わる
人助けが好意的に評価されないのは,周りの人の振舞いから外れている極端に他者奉仕的なときだけではない。人は行動の結果だけではなく,行為者がなぜその行動を取ったか, すなわち行為者の動機も踏まえて評価を行う。他者の人助けを評価する際も同様で,文化圏による違いは多少存在するものの,基本的には「困っている人を助けたい」という他者志向的な動機ではなく,「見返りが欲しい」といった自己志向的な動機で行動した人は好意的に評価されにくい。興味深いのは,見返り欲しさに人助けを行った人は,まったく人助けを行わなかった人よりも否定的に評価されることである (Newman & Cain, 2014; Carlson & Zaki, 2018; Kawamura et al., in press)。ただし,見返りの種類によっても異なっており,感情的な見返り (例: 人助けをして良い気分になりたい) は物理的な見返り (例: 寄付をして税控除を受けたい) や社会的な見返り (例: 周りから褒められたい) と比べると肯定的に評価されやすい (Carlson & Zaki, 2018; Kawamura et al., in press)。
5.まとめ
ここまで,基礎研究の知見に基づいて,人助けは基本的には周りから好意的に評価される行動であること,一方で状況によっては好意的に評価されないことを述べてきた。本稿の最後に,これらの知見が現実の社会問題にどのような示唆を与えうるかについて考察したい。
第1節でも述べた通り,人助けが一般的に肯定的に評価されることを利用して,人助けがほかの人にも伝わるようにする取り組みは実社会の中でも観察される。人助けをした人を表彰する,寄付をした人の名前をウェブサイトに記載するといった試みはその1つであろう。これらは,人助けが常に肯定的に評価されるのであれば,人助けを促す試みとして機能するだろう。しかし,「極端に他者奉仕的な人はむしろ好まれない」という知見を踏まえると,個人名を公開するという方法は極端な人助け,例えば高額の寄付には効果的ではないかもしれない。実際,先行研究では,寄付をしたことを他者に知らせるかどうか選択できる場合に,寄付額が極めて低い人だけでなく極めて高い人も匿名での寄付を行いやすかったという報告がある (Raihani, 2014)。また,周りから好かれるために人助けを行うことを良しとしない文化圏では,匿名状況の方が寄付を多く集めていたという研究もある (Lambarraa & Riener, 2015)。そして第3節でも述べた通り,極端に他者奉仕的な行動を好まないという傾向は日本で強いことを踏まえると,特に日本では,人助けの「見える化」がむしろ人助けを減らす可能性を考慮すべきかもしれない。これらの議論は基礎的な知見に基づいている部分が多いものの,文化特有の心理傾向を踏まえた施策の重要性を示唆している。
参考文献
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Raihani, N. J. (2014). Hidden altruism in a real-world setting. Biology Letters, 10, 20130884.